バイオエネルギーを活用する環境調和型社会を実現するには,バイオ原料の供給体制の確立が前提となる。
そのためには,広大な面積において低コストで安定した生産ができるいわゆるエネルギー作物の利用が必要である。
北海道ではテンサイが有望品目の一つと考えられる。
本研究では,十勝の畑作地帯の37%を占める淡色黒ボク土圃場において、テンサイをバイオエタノール原料として低コスト生産するために,
投入エネルギーの少ない簡易耕起法と直播を組み合わせた省エネルギー栽培方式を試み、その出芽性、収量性、エネルギー収支、環境影響などから、
エネルギー作物としての可能性を評価することを目的とした。
その研究結果は以下のようにまとめられた。
1.省エネルギー栽培の土壌に及ぼす影響と生産性
テンサイ生産の省エネルギー化を図る方法として、不耕起を含む簡易耕起方式と直播とを組み合わせた省エネルギー栽培方式の生産性を調査した。
試験区として簡易耕直播Ⅰ区,簡易耕直播Ⅱ区、不耕起直播区および慣行の耕起移植区を設けた。
簡易耕直播Ⅰ区はチゼルプラウにより耕深30 cmで耕うんした。
簡易耕直播Ⅱ区は,チゼルプラウ耕の後パディーハローにより深さ10 cmで砕土,整地した。
不耕起直播区では,播種時の耕うん・砕土・整地作業は行わない。
直播栽培を確立するためには出芽率の確保が重要な要件となるので、種子周辺の土壌物理性と出芽率との関係に主眼を置き調査した。
3カ年にわたる試験の結果、淡色黒ボク土は砕土性に優れるため、不耕起または簡易耕起法による出芽率の低下は認められず、
既往の研究で明らかにされている減収回避のための条件、出芽率85%以上を満たすことを実証した。
直播方式の糖収量は慣行の耕起移植方式に比べ8.3から12.8%劣ったが有意差はなかった。
しかし、不耕起直播区では、根部の大きさ、形状のばらつきが大きく、収穫歩留まりに及ぼす影響について課題が残された。
2. エネルギー収益および環境負荷低減効果
想定した作業体系のエネルギー収支およびCO2排出量を算出し、生産効率と環境影響の面から評価した。
算出に当たっては、LCA手法を適用し、作業体系ごとの10 a当たりの直接,間接投入エネルギー,直接,間接CO2排出量をインベントリ分析した。
産出エネルギーは圃場試験の結果から導出した。
分析対象はほ場作業,資材運搬および収穫物運搬とした。
その結果、想定した省力体系の直接投入エネルギーの削減効果は高く,
慣行の耕起移植区に比べ簡易耕直播Ⅰ区で47%減,Ⅱ区で40%減および不耕起直播区で51%減となった。
同様に,CO2の排出量削減効果も高く,簡易耕直播Ⅰ区47%減,Ⅱ区41%減および不耕起直播区54%減となった。
農業機械,農薬,化学肥料および燃料の製造に要する間接投入も考慮に入れた直播方式におけるエネルギー収益は,
簡易耕Ⅰ区が最も高く12571MJ/10aとなり,耕起移植区を上回った。
簡易耕Ⅱ区,不耕起区は耕起移植区をやや下回った。
しかし、直播方式のエネルギー産出・投入比は3.62~4.00と移植方式3.41に比べて高く、効率の良い生産方式であることが明らかとなった。
直播方式におけるCO2の排出量は,耕起移植区の71%から73%であり環境保全の面でも効果的である。
以上の結果から、淡色黒ボク土圃場においては、テンサイを簡易耕起または不耕起と直播を組み合わせた省エネルギー生産が可能であり、
エネルギー生産効率、環境負荷の点において、慣行の耕起移植方式より優れているものと認めた。
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