氏 名 とうごう まこと
藤郷  誠
本籍(国籍) 埼玉県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第418号
学位授与年月日 平成20年3月21日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 遺伝子組換え技術を用いた新形質ダイズの作出
(Production of soybeans with novel traits using transgenic technique)
論文の内容の要旨

 遺伝子組換え技術は従来の人工交配等による品種改良の限界を超えて、作物へ新形質を付与することが出来る。 現在実用化されている組換え作物は、除草剤耐性作物と病虫害耐性作物が主で、「遺伝子組換え第一世代」と呼ばれ、 農業従事者が栽培する上で、省力化を図ることが出来る。 しかし、このような形質は農業生産上に有用な形質であって、生産物を消費者が実際に食べる時点ではほとんど益のない形質となり、 消費者は食品としての安全性に疑問を持っている。 現在は消費者が実際に食用として利用した時に、利益がある形質を付与した「遺伝子組換え第二世代」が開発されている。 今後は遺伝子組換え作物が開発される際に、この第一世代と第二世代をうまく組み合わせていく必要がある。 また、多くの遺伝子組換え作物に含まれる選抜マーカー遺伝子は微生物由来で、作成過程で必要なものであるが、 実際に商用栽培されて食料となる時には不要の遺伝子である。 この選抜マーカー遺伝子の利用にも疑問を抱く消費者は多い。 本研究は遺伝子組換え技術により、実用性の高いダイズを作出するために以下の研究を行った。

 第1章では、北日本において甚大な被害を起こしているダイズわい化病の病原ウイルスである ダイズわい化ウイルス ( Soybean dwarf virus , SbDV)に抵抗性を持つ遺伝子組換えダイズの作出を行った。 SbDVの外被タンパク質(Coat protein, CP)遺伝子の逆位反復配列とセンスSbDV CP 遺伝子を導入したダイズをそれぞれ1系統と6系統ずつ作出した。 SbDV CP 遺伝子の逆位反復配列の導入から作出した後代系統ではSbDV抵抗性を示し、 その抵抗性は逆位反復配列由来の21から24塩基の低分子RNA(short interference RNA, siRNA)が検出され、 RNAサイレンシング機構によりSbDV抵抗性を獲得したと考えられた。 センスSbDV CP 遺伝子を導入したダイズ6系統のうち、SbDV抵抗性が高いと考えられた系統番号6の個体群について、 詳細にSbDV抵抗性機構を解析した。 系統番号6のT1個体群で、導入遺伝子の分離が確認され、3種類の分離系統を獲得した。 これらの3種類の分離系統のT2個体群はSbDV抵抗性を示したが、 そのうちの1系統は閾値モデルによるRNAサイレンシング機構によってSbDV抵抗性が付与されたと考えられた。 以上のように、2種類の異なる構造の遺伝子の導入を行い、RNAサイレンシング機構によるSbDV抵抗性ダイズを作出した。

 第2章では、消費者が実際に食用として利用した時に、利益がある遺伝子組換えダイズの開発を目指して、 中鎖脂肪酸合成能のないダイズへ中鎖脂肪酸を合成させることを試みた。 中鎖脂肪酸は摂取した後に、すみやかに吸収されて分解されるため、肥満になりにくい食用油の成分とされている。 炭素数10のカプリン酸を大量に蓄積する Cuphea leptopoda から単離された中鎖脂肪酸合成に関与すると考えられる アシル-ACPチオエステラーゼ遺伝子( Cle-FatB1Cle-FatB2 )をダイズに導入して、 T1種子における中鎖脂肪酸の蓄積の確認を行った。 Cle-FatB1 もしくは Cle-FatB2 遺伝子の導入が確認された再分化ダイズ個体より得られた5系統の T1種子でGC/MSによる脂肪酸組成の測定を行ったところ、1系統のT1種子の2粒で、 ダイズ種子には見られない炭素数10のカプリン酸と炭素数12のラウリン酸を微量ながら検出した。 本研究により、微量ではあるが、遺伝子組換え技術を用いてダイズ種子に中鎖脂肪酸を蓄積できることが初めて明らかになった。

 第3章では、遺伝子組換え作物の実用化にあたって、障壁となる微生物由来の選抜マーカー遺伝子に代わるものとして、 イネ由来の除草剤耐性遺伝子( Os-mALS 遺伝子)をダイズ組換え体作出時に利用するための培養系の検討をした。 Os-mALS 遺伝子が導入されたダイズ不定胚が選抜できる除草剤濃度を、低濃度条件、中濃度条件と高濃度条件に設定して調査した。 低濃度条件で選抜後の再分化個体より得られたT1種子より育成されたT1ダイズは除草剤抵抗性を持ち、 遺伝解析により Os-mALS 遺伝子が導入され、予想通り転写が起こっていることを確認した。 中濃度条件と高濃度条件では再分化個体は得られなかった。 本章で確立した遺伝子導入系では、除草剤選抜時にエスケープ個体が出現する欠点もあるが、 Os-mALS 遺伝子を選抜マーカー遺伝子とした除草剤選抜はダイズ組換体作出時にも適応可能であることが明らかになった。