氏 名 | さくらい じゅんこ 櫻井 淳子 |
本籍(国籍) | 千葉県 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第416号 |
学位授与年月日 | 平成20年3月21日 | 学位授与の要件 | 学位規則第5条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物資源科学専攻 | ||
学位論文題目 | イネアクアポリン遺伝子の同定とその発現及び機能解析 (Identification of rice aquaporin genes and analysis of their expression and function) |
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論文の内容の要旨 | |||
アクアポリンは生体膜に存在し、主に水を選択的に輸送するチャンネルである。 植物のアクアポリンは、細胞や組織さらに植物体全体における水透過性に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。 すでに、シロイヌナズナやトウモロコシ等では、30種類を超える全アクアポリン遺伝子が同定され、植物体内での発現様式、 機能解析等が進捗しているが、世界で最も多くの人々が主食とする重要穀物イネについては、 アクアポリン遺伝子の種類、発現様式等についても報告が少ない。 そこで本研究では、イネの全アクアポリン遺伝子を同定し、これらのアクアポリン遺伝子の発現、 局在及び水透過性に関するプロファイルを作成することを第一の目的として研究を行った。 この結果から、各器官や組織で重要な役割を果たすイネアクアポリンが選定されるので、それらに着目して、 環境ストレスに対するイネの応答とアクアポリンの関係についても検討を行った。 既知のシロイヌナズナやトウモロコシのアクアポリン遺伝子配列を元にして、 イネゲノムデータベースより33個のアクアポリン遺伝子を同定した。 その数は、シロイヌナズナの35個やトウモロコシの33個と近いが、その内訳を見ると、 他の植物にはない特徴的な配列を持つアクアポリンOsPIP2;7、OsPIP2;8の存在や、 4つのサブファミリーのひとつNIPに属するアクアポリンの種類の多さ等が明らかとなった。 これら33個の全アクアポリン遺伝子の発現を葉身と根で比較したところ、 アクアポリンの種類によって異なる器官局在性を持つことが明らかとなった。 葉身と根では、それぞれ13及び16個のアクアポリン遺伝子が多く発現していた。 この中から特に発現量の多い9個のアクアポリンに着目し、これらを個別に認識することができるペプチド抗体を作成した。 この特異的抗体を用いて、根や葉身におけるアクアポリン局在を免疫組織染色法にて明らかにした。 その結果、根では、特に根端に近い部位(根端から約4 mmの部位)で、アクアポリンの種類により異なる組織に局在していることを明らかにした。 例えば、OsPIP1型、OsTIP2;1は内皮特異的に局在していたのに対し、OsTIP1;1は外皮や厚膜組織特異的に局在していた。 したがって、イネは種々のアクアポリンメンバーを適材適所に配置し、根の表皮から道管に至る放射方向の水輸送を促進していると考えられる。 また、イネアクアポリンは主に根端から1.5~4 mmの部位に多く局在し、それより基部側ではあまり発現していなかった。 葉身では、2つのアクアポリン抗体が葉肉細胞と反応したことから、これらのアクアポリンが、 蒸散を行うために必要とされる葉肉細胞の水ポテンシャルを維持するため機能していると考えられる。 また、他の植物でCO2輸送能が確認されているアクアポリンもあることから、 アクアポリンが葉肉細胞のCO2透過性に関与している可能性も考えられる。 特にイネ体内で発現量の多い10個のアクアポリンに着目して、これらの水透過活性を、 酵母の異種遺伝子発現系及びストップトフロー光散乱法を用いて個別に評価した。 その結果、細胞膜型アクアポリン(PIP)のうちPIP2型の5種類、及び液胞膜型アクアポリン(TIP)のOsTIP2;2が 明瞭な水透過活性を持つことを明らかにした。 一方、PIP1型とTIP1型の水透過活性は低かった。 以上の結果を総括すると、根では、少なくともOsPIP2;1、OsPIP2;2、OsPIP2;3、OsPIP2;4、OsPIP2;5、OsTIP2;2の6種類が 活性型のアクアポリンとして機能していると考えられた。 葉身では、OsPIP2;1、OsPIP2;2、OsTIP2;2の3種類が活性型のアクアポリンとして機能していると考えられた。 これらのアクアポリンを主なターゲットとして、環境ストレスとの関係について検討した。 まず、低温による吸水量の低下と根のアクアポリン発現量にどのような関係が見られるかどうか検討を行った。 4℃の低温処理を1~3日間行うと、アクアポリン遺伝子発現量が低下し、その後、常温に戻すと回復した。 このパターンは、根の吸水量(溢泌液量)の変動パターンと一致した。 次に、高CO2条件による蒸散量低下と、根や葉身のアクアポリンの量的変動の関係について検討を行った。 + 200 ppmの高CO2区でイネを生育させた場合、最大で約23%もの蒸散量低下が認められた。 一方、根のアクアポリン遺伝子発現量には高CO2区と大気CO2区で明瞭な差は見られなかったことから、 蒸散量の低下と根のアクアポリン遺伝子発現量には相関がないと考えられる。 葉身のアクアポリンについては、OsPIP1;1 、OsPIP2;2 発現量が高CO2区で11~35%低下した。 これらアクアポリン遺伝子発現量の低下が、葉身の水ポテンシャル低下を介して蒸散量の低下に寄与している可能性がある。 今後はタンパクレベルでの発現解析も行い、アクアポリンの量的変動とストレス応答性の関係についてさらに検討を進める必要がある。 また、環境ストレスがアクアポリンの活性(ゲートの開閉)調節に及ぼす影響についても検討する必要がある。 アクアポリンの量的変動及び活性制御の双方からの解析を進めることにより、 アクアポリンが植物の環境ストレス応答に果たす役割の全容が解明されるものと期待される。 |