氏 名 おいかわ あい
及川  愛
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第413号
学位授与年月日 平成20年3月21日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 イネ科作物特異的タンパク質P23kの機能解析
(Functional characterization of a monocot-unique protein P23k)
論文の内容の要旨

 P23kは、イネ科作物特異的に存在するタンパク質で、特にオオムギをはじめとしたムギ類に多く含まれており、 吸水したオオムギ種子の胚盤における発現・局在解析から糖代謝ないしは糖輸送に関わることが推定されている。 本研究では、オオムギの栄養生長期から生殖生長期におけるP23kの発現・局在を解析し、P23k発現抑制系統の作出、 P23k相互作用因子の同定及びP23kの細胞内局在を解析し以下の結果を得た。

(1) P23kは吸水後の発芽ステージ以外にも栄養生長期から生殖生長期に至る全生育ステージで発現しており、 栄養生長期では葉の維管束組織や厚壁組織に、さらに生殖生長期でも節の維管束組織や厚壁組織に局在していることが明らかとなった。 また興味深いことに、生殖生長期の登熟種子ではP23kのパラロガスタンパク質であるJIP-23が維管束組織や糊粉層に発現・局在しており、 同一の生理機能を有すると推測されるP23kとJIP-23が、異所的な発現制御を受けることで機能分担している可能性が示唆された。

(2) P23k発現抑制系統の作出を、オオムギ斑状モザイクウイルス(BSMV)を用いたウイルス誘導ジーンサイレンシング(VIGS)法により行った。 BSMVベクターにP23k遺伝子を導入した人工ウイルスRNAをオオムギシードリングの下位葉に接種しP23kの発現抑制を試みた。 その結果、P23k発現抑制個体では、葉の非対称性や葉端の破れの形態変化が認められた。 類似の表現形が細胞壁の二次壁形成に関与する遺伝子変異体でも認められることや、 P23kが二次壁の発達する維管束や厚壁組織に局在することから、 P23kが多糖類合成を通じて二次壁形成に重要な役割を担っているタンパク質であると推定された。 P23k発現抑制系統では、通常の個体に比べて多糖類含量が低下していた。 またP23kの細胞内局在を調べた結果、ヘミセルロースの合成場所である小胞体およびゴルジ体の膜表面に存在していた。 さらに、酵母ツーハイブリッド法によりP23kの相互作用因子をスクリーニングした結果、 P23kはヘミセルロースの合成に関与しているRiversibly glycosylated protein(RGP)が候補因子として単離された。これらの結果は、 いずれもP23kが細胞壁多糖類であるヘミセルロースの合成を介して二次壁の形成に関わっていることを強く示唆していた。

(3) イネ科作物のヘミセルロースを構成する多糖類はとしてβ-(1,3;1,4)-glucan(以下 -グルカンと称す)が特異的に含まれており、 オオムギのP23kの分布とβ-グルカンの含量に相関関係がある。 したがって、P23kはβ-グルカンの合成に関与していると推測できる。 P23k発現抑制個体でのβ-グルカン合成酵素遺伝子CslF の発現を調べた結果、CslF 遺伝子の発現量が著しく低下しており、 P23kの発現抑制で減少した多糖類がβ-グルカンであると推察された

 本研究は、P23kがイネ科作物特異的なヘミセルロースであるβ-グルカンの合成機構に関与するタンパク質であることを明らかとすると共に、 オオムギ遺伝子の機能解析にVIGS法が有効利用できることを示した。 ムギ類は、形質転換植物の作成が困難なため遺伝子の機能解析が進んでいないが、本研究におけるVIGSの成功は、 ムギ類研究におけるVIGS法の普及につながり、ムギ遺伝子の研究進展に大きく貢献すると期待される