氏 名 ソウ ショウ カイ
宋  暁凱
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第411号
学位授与年月日 平成20年3月21日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 中国りんご生産・流通過程における農家組織発展の方向性に関する研究
(A study of the direction of the development of farmers' organizations involved in the production and distribution of apples in China)
論文の内容の要旨

 今日、世界一のりんご生産国である中国のりんご生産・流通は農家経営規模の零細性、 生産過剰および商人による流通段階の寡占など、幾多の課題を抱えている。 これらの対応として、りんご農家による組織化の取り組みが始まっているが、現状の農家組織はいかなる性格を有しているのか、 いかなる機能を果たしているのかを明らかにし、りんご生産・流通における農家組織発展の方向性を検討した。 特に、現在、中国において日本の農協法にあたる「中国農民専業合作社法」の成立(2006年10月)、 施行(2007年7月)の新たな段階に入っており、農家組織化の検討は「三農(農業・農村・農民)問題」解決のための最重要課題となっている。

 本論文では以下の分析を行った。

 第1に、統計資料を中心に、1978年以降のりんご生産の展開及びそれに対応するりんご流通の動向を分析した結果、 無制限な生産拡大のため、りんご生産は過剰となり、結果として販売問題が生じている。 りんご流通の主な担い手は供銷合作社から商人に変わり、利益の追求を目的とする商人によるりんご農家への買い叩きなどが広がっている。

 第2に、産地市場開設の事例(山東省栖霞市)をとりあげた。産地市場開設は多様なりんご流通ルートの形成に大きな役割を果たしたが、 情報受発信機能の弱さなどの課題を抱えているため、市場との運送距離によって農家の流通対応は異なっている。 市場に遠距離の村ではりんご農家による小規模な販売グループが形成され、委託販売を受けて消費地市場への直接販売を行っている。 小規模な販売グループは農家からの買い取りを行っているため、商人的性格も有している。

 第3に、りんご農家による大規模な農家組織であるりんご協会(遼寧省大連市東馬屯)は、 組合員のりんご販売を目的に設立されたものであるが、りんご販売のみならず生産技術の指導、研修、資材の供給、 地域づくりなどに取り組んでいることから、りんご生産・流通において技術情報の提供、規模の経済、地域の活性化などの機能を果たしている。 しかし、りんご協会は全組合員に対して利益の分配を行っておらず、企業的性格の面が強く、本来の協同組合組織とはなっていない。

 第4に、中国では、改革開放以降、農家組織(専業合作組織)は大きな発展を遂げる一方、整備する法律がなかったため、 内部管理体制や利益返還などの課題を抱えていた。 このため、農家組織に関する法的整備が進められ、専業合作社法が制定された。 法律の目的は、組合員農家の合法的権益を守り、農業及び農村経済の発展を促進することにある。 りんご農家組織指導者の意識調査の結果によれば、指導者たちの合作社法に対する理解度には差異があるものの、 合作社法に基づき組織を改組しようとしている。

 しかし、合作社法制定後のりんご農家組織は協同組合的性格を持つとはいえ、数多くの課題を抱えており、 りんご農家の協同組合化はまだ初期段階にあると言わざるを得ない。 合作社法施行後に設立された対象事例の専業合作社も協同組合原則を掲げているが、 合作社=協同組合の原則に対する知識や理解に不十分な点が見られる。

 今後、りんご農家組織が専業合作社として発展するためには、いくつかのことが実行されなければならない。 第1に、人材の育成である。 人材不足は組織の発展を制限する大きな要因の一つであるため、組織の指導者のみならず、 組合員農家及び関係部門の役員や幹部などを対象とした人材育成事業を展開する必要がある。 さらに協同組合に関する知識を深めなければならないが、組織の規模拡大に伴い、経営専門家の育成も必要になってくるであろう。 第2に、事業資金の融資である。 金融部門を持たない農家組織は、資金の調達を銀行などの金融機関に頼らざるを得ないが、農業融資の条件が厳しく、 利率が高いため、資金需要が満足にできない状況にある。 したがって、金融部門は貸付手続きの簡略化、優遇利率の適用などをすることにより、積極的に貸付を行わなければならない。 第3に、利益分配システムの健全化を図ることである。 まず、財務会計制度に基づき会計を行う必要がある。 次に、リスクへの備えおよび拡大再生産を行うために、毎年の剰余金から優先的に積立金を積み立てなければならない。 積立金を引き出した後の剰余金の分配は、合作社法の規定に基づき組合員との取引量(額)に比例して剰余金の60%以上を実施することである。

 以上、これまで指摘したように、りんご農家組織は協同組合的性格を有しているが、数多くの課題を抱えているため、 りんご農家の組織化はまだ胎動期にある。 実際、商人による専業合作社の先導的組織化、組合員の選別化の動きも見られ、本格的な合作社の組織化は今後の課題となっている。

 このような中で専業合作社法に基づき設立された専業合作社の中には、全組合員の共同利益を図ることを目的とし、 内部管理体制や剰余金分配システムの確立などを行いつつある。 このように合作社法に基づき専業合作社を設立することは、りんご農家組織化の基本方向となると考える。 その上で、りんご農家組織を専業合作社として発展させるためには今後、人材の育成、事業資金の獲得、 剰余金分配システムの健全化など、実施体制の確立が求められている。