本研究の目的は,わが国の乳牛集団に最適な変量回帰検定日モデルを構築することであった。
さらに,これを拡張し,各個体に対する泌乳量の成熟度を説明するモデルについても検討した。
検定日乳量に影響を及ぼす諸要因の検討
乳牛の各泌乳ステージにおける検定日乳量に関して,初産および2産牛に対する環境効果の大きさおよび遺伝的パラメータを推定し,
各要因の泌乳パターンへの寄与について調査した。
牛群・分娩年は乳期を通して泌乳量の変動を最も説明したが,分娩月齢および分娩年月による変動は相対的に小さかった。
遺伝率は初産において0.19から0.35,2産において0.12から0.29の範囲にあった。
牛群・分娩年および分娩年月による泌乳曲線を説明するには,高次の多項式関数が必要であった。
相加的遺伝曲線を説明するには,両産次とも2次のLegendre多項式で十分であったが,泌乳パターンは産次によって異なることが示された。
変量回帰検定日モデルによる泌乳量に対する遺伝的パラメータの推定
牛群に固有の泌乳曲線を含む,または含まない変量回帰検定日モデルから推定された遺伝的パラメータを比較した。
牛群・検定日を母数効果とするHTDモデルと,牛群・検定日を変量効果とし,さらに牛群・分娩年に対する母数回帰を含めた
HYCモデルの2つの統計モデルを用いた。
両モデルとも,相加的遺伝および恒久的環境効果に対して3次または4次のLegendre多項式を当てはめた。
分散成分の推定にはGibbs Samplingを使用した。
推定値には次数間の差は認められなかった。
牛群曲線を含めないモデルから推定された相加的遺伝共分散に関して,牛群効果との交絡が示唆された。
北海道の牛群に対して検定日モデルによる遺伝評価を行う際には,牛群ごとの泌乳曲線を考慮する必要があるものと推察された。
泌乳成熟性を考慮した検定日モデルによる遺伝的パラメータの推定
初産から5産までのホルスタイン雌牛に関する乳量の検定日記録で変量回帰検定日モデルを拡張した3種のモデルから,
泌乳の成熟性に関する遺伝的パラメータをそれぞれ推定し,最適なモデルを決定した。
恒久的環境効果に対して,泌乳時月齢に対する変量回帰のみを含むモデル(A),
泌乳期内の泌乳日数に対する変量回帰を含むモデル(B),両方の回帰を含むモデル(C)の3つの数学モデルを仮定し,
それぞれ遺伝的パラメータを推定した。
分散成分の推定にはGibbs Samplingを使用した。
泌乳の成熟性に対して偏りのない遺伝的パラメータを得るには,恒久的環境効果に関して泌乳日数および月齢に対する
変量回帰を含める必要があると推察された。
泌乳量の成熟度と在群期間との遺伝的関連
泌乳量の遺伝的成熟曲線から成熟度に対する複数の指標(総合育種価)を算出し,それらと在群期間との遺伝的関連を調査した。
成熟度として,若齢時には負の,成熟後には正の重みを含むもの(V ),
相加的遺伝共分散行列の第2主成分に基づく総合特性値(PC2 )を考慮した。
成熟度の指標は泌乳レベルと独立であることが好ましいことから,在群期間の育種価との相関係数は,
V およびPC2 に対してそれぞれ0.23および0.17であった。
一方で,生涯生産量の育種価との相関係数は,両指標に対してそれぞれ0.30および0.19であった。
本分析の結果から,長命性に対して成熟度よりも乳生産レベルの遺伝的寄与が大きいことが推察された。
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