氏 名 おおさわ たけふみ
大澤 剛史
本籍(国籍) 愛媛県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第408号
学位授与年月日 平成20年3月21日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 黒毛和種における枝肉横断面の画像解析形質と産肉能力形質に関する遺伝分析
(Genetic analysis for meat production traits and image analysis traits of carcass cross section in Japansese Black cattle)
論文の内容の要旨

 本研究は、牛枝肉横断面撮影装置により撮影された黒毛和種の枝肉横断面画像を用いて枝肉横断面の画像解析を行い, 得られる画像解析形質の遺伝分析を行うことを目的とし,1)胸最長筋以外の肉量に関わる部位の画像解析形質間の遺伝的関連性, 2)発育性や飼料利用性と枝肉成績間の遺伝的関連性,および 3)北海道内の黒毛和種集団に対して胸最長筋の画像解析形質に関する遺伝的趨勢について分析を行った.

 胸最長筋以外の肉量に関わる部位の画像解析形質間の遺伝的関連性の分析は, 間接検定材料牛404頭ならびに北海道内の枝肉市場に出荷された黒毛和種去勢牛2,925頭を用い. 間接検定材料牛は,枝肉横断面の胸最長筋,僧帽筋,広背筋の実面積ならびに筋肉内脂肪面積割合, 複数の部位に区分した皮下脂肪および筋間脂肪などの実面積ならびに枝肉横断面の実面積に対する各形質の実面積の割合(面積%)について分析した. 市場出荷牛は,胸最長筋と僧帽筋の筋肉面積,筋肉内脂肪面積割合,全体の粒子のあらさおよび最大粒子のあらさを算出した. 間接検定材料牛の分析から,各皮下脂肪および各筋間脂肪の面積%に関する遺伝率は, それぞれ0.58~0.72および0.37~0.71と中程度から高い範囲にあった. 皮下脂肪と筋間脂肪の面積%間の遺伝相関は0.15と低い値であった. BMSナンバーと強い関連性を持つ胸最長筋内脂肪面積割合と皮下脂肪の面積%間の遺伝相関は,-0.28~-0.08と負の値を示し, 筋間脂肪とは0.17~0.22と正の値を示した. 市場出荷牛の分析から,筋肉面積,筋肉内脂肪面積割合,全体の粒子のあらさおよび最大粒子のあらさの遺伝率は, それぞれ胸最長筋において0.46,0.59,0.47および0.20,僧帽筋において0.47,0.57,0.49および0.13と推定された. 胸最長筋と僧帽筋の筋肉内脂肪面積割合と皮下脂肪厚間の遺伝相関は,負の値が推定された(-0.21および-0.19). 胸最長筋と僧帽筋間の画像解析形質間の遺伝相関は,筋肉面積,筋肉内脂肪面積割合,全体の粒子の粗さおよび最大粒子のあらさにおいて, それぞれ0.38,0.52,0.39および0.60と高い値ではなかった. したがって,効率の良い育種改良には,胸最長筋以外の筋肉や部位についても評価すべきである.

 発育性や飼料利用性と枝肉成績間の遺伝的関連性の分析は,北海道内の子牛および枝肉市場で取引された 黒毛和種去勢牛805頭ならびに間接検定材料牛1,492頭を用いた. 市場出荷牛は,子牛市場出荷時体重,胸最長筋の筋肉内脂肪面積割合,全体の粒子のあらさおよび最大粒子のあらさについて分析し, 過肥の影響をみるために子牛市場出荷時体重を子牛市場出荷時日齢で除した日齢体重を6つのサブラクス(0.8,0.9…1.3kg/day)に分類し, 母数効果として含めた. 間接検定材料牛は,発育形質として肥育開始時の体重や体高など,飼料利用形質として濃厚飼料摂取量や要求率など, 画像解析形質として全体の粒子のあらさや細かさ指数などについて分析した. 市場出荷牛の分析から,子牛市場出荷時体重の直接および母性遺伝率は,0.15および0.12であった. 子牛市場出荷時体重と画像解析形質間の直接遺伝相関は,全て負の値が推定された(-0.70~-0.34). また,脂肪交雑において1.0kg/day付近の日齢体重が最も望ましいことが示唆された. 間接検定材料牛の分析から,BMSナンバーと発育形質および飼料利用形質間で, 低いあるいは無の遺伝相関(-0.13~0.16)が推定されたが,全体の粒子のあらさおよび細かさ指数と発育形質間の遺伝相関は, それぞれ0.17~0.37および-0.29~0.06が推定された. 全体の粒子のあらさおよび細かさ指数と濃厚飼料摂取量間の遺伝相関は,それぞれ0.41および-0.23が推定され, それらと要求率間においては,それぞれ-0.16~-0.07および0.19~0.25が推定された. したがって,発育性や飼料効率が良い個体は,あらい脂肪交雑粒子が増加し,細かい脂肪交雑粒子が減少することが示唆された
胸最長筋の画像解析形質に関する遺伝的趨勢の分析には,北海道内の枝肉市場に出荷された黒毛和種7,728頭を用いた. 画像解析形質として筋肉内脂肪面積割合,全体の粒子のあらさ,最大粒子のあらさなどを用いた. 母数効果として,性別,市場開催日,と畜時月齢を用い,変量効果として肥育農家,相加的遺伝子効果および残差を用いた. 筋肉内脂肪面積割合の予測育種価の正確度が0.4以上の種雄牛(502頭)および繁殖雌牛(10,054頭)について, 出生年ごとの平均予測育種価の推移を遺伝的趨勢として求めた. 繁殖雌牛の平均予測育種価は,BMSナンバーにおいては,1987年頃から急激に増加し,画像解析形質においては, 筋肉内脂肪面積割合や全体の粒子のあらさにおいてBMSナンバーと同様に増加傾向にあった. したがって,BMSナンバーの改良は,脂肪交雑の量を増加するが,あらい脂肪交雑を多くすることが示された. また,市場開催日のBLUEの推移が,BMSナンバーにおいて減少傾向にあり,筋肉内脂肪面積割合において増加傾向にあることから, BMSナンバーの判定基準が脂肪交雑の量を重視した格付から,脂肪交雑粒子のあらさを重視した格付に変化した可能性が示唆された.