砂漠は世界の陸地の15%を占め、その10分の1は塩類集積土壌である。
羊草( Aneurolepidium chinense (Trin.) Kitag.)は中国・内モンゴルに分布し、耐塩性が極めて強い。
このため、砂漠の修復に有用と考えられる。本論文は、羊草の耐塩性機構を解明したものである。
羊草の耐塩性が浸透圧調節に起因するのかを、塩処理による浸透圧、体内成分の変化をみることにより調べた。
比較として、耐塩性中庸のペレニアルライグラス( Lolium perenne L.)
および塩感受性のメドウフェスク( Festuca pratensis Huds.)を用いた。
根の浸透圧は、塩処理により羊草では2.1倍に増加し、他の2草種も同様に増加した。
植物地上部の浸透圧は、羊草では変化せず、他の2草種では1.3-1.5倍に増加した。
したがって、羊草の耐塩性は浸透圧調節に起因しないことが分かった。
また、体内成分は、塩処理により3草種ともNa、Clが大きく増加し、Kは羊草でおよそ30%、他の2草種でおよそ60%それぞれ低下した。
羊草の耐塩性が体内の塩濃度抑制に起因するのかを、体内における塩の動態をみることにより調べた。
Naの地上部での蓄積速度および根での吸収速度は羊草が他草種より低く、根での蓄積および排出速度は他草種と同等であった。
葉のNa排出速度は3草種とも他のNa動態要因より極めて低くかった。
これらのことから、羊草の強耐塩性は地上部における塩の低蓄積に起因しており、これは根における塩の低吸収に由来することが分かった。
根における塩低吸収のメカニズムを明らかにするため、まず、KによるNaの拮抗的な吸収抑制の有無について調べた。
羊草はKおよびNaの処理濃度を高めてもそれぞれNaおよびK濃度は変化せず、他の2草種では低下した。
したがって、羊草ではKによるNaの吸収抑制は起こっていないことが分かった。
この羊草における両ミネラルの非拮抗のメカニズムを、ミネラル吸収チャンネルの面から調べた。
羊草の根のプロトプラストでは、NaおよびKの吸収はそれぞれ無選択性-チャンネルおよびK-輸送系を
CaおよびTEAによりブロックすることにより低下した。
他の2草種では、両ミネラルはK-輸送系のブロックにより吸収が低下した。
したがって、羊草における非拮抗的吸収は、両ミネラルの吸収経路が異なることによることが明らかになった。
以上のように、吸収チャンネルの検討において、羊草プロトプラストではNaの吸収はCaにより抑制された。
このCaによるNa吸収抑制は、インタクトな植物においても確認された。
以上から,羊草の耐塩性は植物地上部における塩の低蓄積に起因し、これは根における塩の低吸収に由来することが示され、
この塩の低吸収はCaによるNa吸収チャンネルのブロックにより引き起こされることが明らかにされた。
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