氏 名 こんの たかゆき
今野 貴之
本籍(国籍) 秋田県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第400号
学位授与年月日 平成19年9月28日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 大腸菌tmRNAによるtrans -translationの分子機構解明
( Molecular Mechanism of trans -translation directed by Escherichia coli tmRNA )
論文の内容の要旨

 tmRNAはtRNAとmRNAの二つの機能を併せ持つ、広く真正細菌に保存される安定な低分子RNAである。 tmRNAは、トランス-トランスレーションと呼ばれる変則的な翻訳機構の中心的役割を担っている。 tmRNAは、何らかの原因で翻訳の停滞したリボソームに対して結合し、A部位へと入り込む。 リボソームは、mRNAからtmRNAに翻訳の対象を切り替え、tmRNAにコードされるペプチド(タグペプチド)をできかけのペプチドに付加した後、 tmRNA上の終止コドンを用いて翻訳を終結させる。 タグペプチドを付加された出来損ないのペプチドは、タグペプチドを認識するプロテアーゼにより速やかに分解される。 トランス-トランスレーションは、翻訳の滞ったリボソームの解離を促し、リサイクリングさせることで翻訳の効率を向上させるとともに、 出来損ないのペプチドを速やかに分解することによって、翻訳レベルでのタンパク質の品質管理を担っていると考えられている。 これまでに、tmRNAにはSmpB、EF-Tu、S1といった因子が結合することが報告されている。 しかしながら、これらの因子がトランス-トランスレーションにどのように関わっているのかなど、詳細な分子機構はわかっていない。 特に、翻訳がmRNAからtmRNAへ切り替る際、tmRNA上の翻訳再開始位置がどのようにして決まるかについては、 トランス-トランスレーションの分子機構を解明する上で特に重要な問題となっている。

 tmRNAのタグペプチド翻訳開始点は5'末端より90番目のグアニンを含むGCAコドンより開始される。 通常の翻訳では、その開始点は特定のコドンだけではなく、開始点の上流約10塩基に存在するシャイン-ダルガノ配列と 16S rRNA上に存在するアンチシャイン-ダルガノ配列の相互作用によって規定され、リボソームは適当な開始コドン(AUG)を選択する。 つまり、シャイン-ダルガノ配列と開始コドン(AUG)はmRNAの翻訳開始点を決めるシスの要素であり、 アンチシャイン-ダルガノ配列はこのmRNA上のシスの要素を認識することで翻訳開始点を決めるトランスの要素である。 このシスとトランスの要素がともに正常に相互作用することで翻訳開始点は決定され、翻訳は調節される。 トランス-トランスレーションにおいても通常の翻訳のように、タグペプチド翻訳開始点を決め、 トランス-トランスレーションを正常に働かせる何らかの要素が存在すると考えられる。

 本研究では、in vitro においてトランス-トランスレーションの開始段階を大腸菌の翻訳因子を用いて再構築し、 タグペプチド翻訳開始点を決める因子として、tmRNAのタグペプチドコード領域上流の配列、 16S rRNAのA部位デコーディング領域およびSmpBのC末端部分の三つを同定した。 また、抗生物質のトランス-トランスレーションに及ぼす影響などから、tmRNAのリボソーム中での動向に迫った。 さらに、トランス‐トランスレーションの翻訳再開始位置の決定には、tmRNA とSmpBとの相互作用とSmpBとリボソームとの 相互作用が深く関与していることを確認し、トランス-トランスレーションにおけるmRNAからtmRNAへの翻訳の切り替えは、 SmpBを介して、「mRNA→SmpB→tmRNA」のような二段階の反応で起こるという概念を示した。