氏 名 ささき かずや
佐々木 和也
本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第399号
学位授与年月日 平成19年9月28日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 シネンシス系デルフィニウムの開花習性と開花および草丈制御:
環境要因とジベレリンの作用
( Habit of flowering, and regulation of plant height and flowering in Delphinium grandiflorum L.: Effect of environmental factor and gibberellin )
論文の内容の要旨

 デルフィニウム属(Delphinium )は、キンポウゲ科(Ranunculaceae )に属し、 北半球の温帯から寒帯および南半球のアフリカ高地に広く分布し、その種数は300以上に及ぶとされている。 このデルフィニウム属の習性は、一年生から二年生、多年生と変化に富み、また花色についても青紫系を中心に、 赤、白、黄と様々な花色の原種および園芸品種が存在する。 花序についても豪華な総合花序または穂状花序を形成するものから、 花穂が良く分枝し疎らに花をつける複総状花序を有するものまで多様である。 シネンシス系デルフィニウム(Delphinium grandiflorum L.)は、デルフィニウム属の中では小型であり、 複総状花序をもつことからカジュアルフラワーとして需要が高まっている。 デルフィニウム属の園芸的利用の進展と共に、本属の生理生態的な調査研究が活発に行われてきたものの、 シネンシス系デルフィニウムについては研究例が少なく、 別種のエラータム系デルフィニウム(D. elatum L.)のような環境調節による生育制御技術が未だ確立されていない。 さらに、デルフィニウムに関した知見の多くは暖地での例であり、日長の年次変化が大きく、 温度が低い寒冷地で同様に栽培しても異なる生育を示すことが実際に観察されている。

 そこで本研究では、寒冷地におけるシネンシス系デルフィニウムの開花生態、 開花および草丈制御における環境要因とジベレリンの作用を解明すること目的に、 花成と環境要因および茎伸長と日周温度の関係を明らかにし、 その研究成果に基づいて開花と草丈の制御による周年栽培の作型モデルを確立しようとした。
開花習性に関した研究結果から、シネンシス系デルフィニウムの成長相は、発芽後から葉齢3枚までが幼若相であり、 4枚以降には成熟栄養相に相転換することが示唆された。 また、花芽分化の誘導条件は長日あるいは高温条件であり、本種は典型的な量的長日植物であることが判明した。 本種の花芽分化は、抽苔前から始まっており、夏季の長日・高温条件下では過度に花成が促進し、早期抽苔を生ずると考えられた。 一方、秋冬季に生ずる開花遅延は、自然短日条件と低温条件により、強制休眠状態であるロゼット化を生じたために起こると推察された。

 このロゼット化の誘導を阻止し、開花を促進させるには、長日あるいは高温条件が必要であり、 この長日条件には作用を引き起こす光強度と夜温との関連が存在することが確認された。

 また、ロゼット化は、ジベレリンあるいは低温処理によって打破され、開花が促進されることが明らかになった。 花成関連遺伝子であるLFYの発現は、茎頂組織において花成を誘導する前から認められ、花芽分化時に一時的に増加することが確認された。

 開花制御に関した研究結果から、加温、長日、短日・夜冷および低温処理を組合せた開花調節によって、 シネンシス系デルフィニウムの寒冷地における周年栽培の作型モデルを具体的に示すことができた。 開花調節を必要とせずにできる作型では、5月中旬~7月下旬まで開花し、別種のエラータム系よりも早期に開花することが明らかにされた。 加温、長日および短日・夜冷の3処理を組み合わせた作型は未調査であるが、短日・夜冷処理による抽苔抑制後に、 加温および長日処理により抽苔促進して得られる11月開花の作型が想定された。 短日処理のみを使用する作型は8月~10月に、加温と長日処理を組み合わせた作型では12月~4月に、 加温と自然低温処理を組み合わせた作型では3月~5月上旬に、それぞれ開花する作型として利用可能と考えられた。

 最後に、草丈制御に関した研究結果から、日周温度がシネンシス系デルフィニウムの茎伸長に著しく影響を及ぼし、 昼温が夜温よりも高温(+DIF)と早朝の短時間降温(以下、TD)では促進的に、一方、 夜温が昼温よりも高温(-DIF)と夜間の短時間昇温(以下、TR)では抑制的に、それぞれ作用することが明らかとなった。 日周温度は、茎頂組織のジベレリン生合成、茎組織の細胞分裂および細胞伸長に影響を及ぼし、 最終的に茎伸長を引き起こしていることが推察された。 本種は、開花時期によって草丈が顕著に変化し、9月~3月にかけて開花するものは短く、5月~6月にかけて開花するものは長い。 花きでは用途によって草丈に対する需要が異なり、切り花では長く、鉢花では短いものが好まれるため、 本種を切り花用途として栽培するには、9月~3月に開花するものは草丈が短いため+DIFとTDによる伸長促進が、 逆に、鉢花用途では、5月~6月に開花するものは草丈が著しく長くなるため-DIFとTRによる伸長抑制が、それぞれ有効と考えられた。