本研究は、フェストロリウムの飼料栄養特性を、牧草の生育時期別の飼料成分変化、
サイレージ調製時の栄養価および嗜好性の観点から検討し、
フェストロリウムの北東北地域における採草利用草種としての可能性を明らかにしたものである。
本研究では、特に北東北地域において粗飼料の年間収量の約半分を占める1番草に着目して研究を行った。
国内で最も一般的な品種であるEvergreenは造成後4年間,北東北地域の主幹草種である
オーチャードグラス(Dactylis glomerata L. )品種キタミドリと同等な収量性を示した。
Evergreenの生育時期の進行にともなう可溶性炭水化物(WSC)含量および可消化養分総量(TDN含量)の低下程度は
キタミドリよりも緩やかで、刈り遅れた場合のサイレージ材料としての特性およびサイレージの
品質・栄養価はEvergreenの方が優れていると考えられた(第2章)。
前述の研究ではフェストロリウム品種Evergreenについて、採草利用品種としての有用性が明らかになったが、
フェストロリウムの栽培特性や環境耐性は品種間差異が大きいことが知られている。
そこで、栽培特性の異なるフェストロリウム2品種(Felina,Paulita)の1番草における収量性および飼料成分の変化を調査し,
前章で検討したフェストロリウム品種(Evergreen)と比較した。
Paulitaにおける栄養価の生育に伴う変化はEvergreenと同程度で,高栄養価な飼料原料であると考えられた。
一方,Felinaの繊維成分含量はEvergreenに比べ高いが,繊維成分の生育に伴う変化の程度はEvergreenよりも緩やかで,
刈取適期幅が広く,繊維質飼料を求める場合には有用な品種であると考えられた(第3章)。
前述までの研究では飼料成分および栄養価からのフェストロリウムの飼料特性を検討した。
しかし、近年、粗飼料に求められているものは栄養価のみではなく、粗飼料の採食性の高さであることから、
フェストロリウムの家畜における嗜好性や自由採食量に関する品種特性の情報を提供する必要がある。
そこで、フェストロリウム3品種(Evergreen、Felina、Paulita)および対照草種としてチモシーの品種ノサップから調製した
サイレージの泌乳牛における嗜好性を評価した。
Paulitaの採食速度は3品種中で有意に高く、ノサップと同等であり、給与3時間後の乾物摂取量も他の品種より多い傾向を示したことから、
フェストロリウム品種間に嗜好性の差があることが明らかになった。
その要因として、飼料成分およびルーメン内での分解性の影響を検討した結果、
繊維含量等の飼料成分は採食速度および給与3時間後の乾物摂取量と一定の関係がみられなかった。
しかし、培養24時間後のルーメン内での乾物消失率における品種間差と同様の傾向を示した。
このことから、Paulitaの給与3時間後の乾物摂取量の多さはルーメン内での分解性の高さが要因の一つであると考えられたが、
嗜好性の高さ(採食速度の速さ)の要因は明らかにできなかった(第4章)。
飼料の嗜好性には、嗅覚や味覚といった感覚刺激が重要な役割を果たしているとされている。
そこで、高嗜好性を示したPaulitaおよびノサップから調製したサイレージの匂い成分を分析し、
その匂い成分が家畜の嗜好性におよぼす影響を検討した。
サイレージからの匂い濃縮物調製方法を検討した結果、サイレージの匂い、特に甘い匂い成分を分析する方法として、
50%メタノールを抽出溶媒とし、カラム濃縮法を用いる方法が有用であることが示された。
次に、サイレージの特徴匂い成分を特定するために、抽出香気希釈分析(Aroma Extract Dilution Analysis; AEDA)を行った結果、
フェネチルアルコール、クマリンおよびバニリン等がPaulitaサイレージの甘い匂いに、
またグアイヤコールおよび4-アリルグアイヤコール等がノサップサイレージのフェノール様香気に貢献していると考えられた。
このAEDAの結果を基に、高嗜好性サイレージの匂いに貢献度の高い特徴匂い成分として8つの化合物を選定し、
サイレージ様匂い混合液を再調合した。
このサイレージ様匂い混合液が家畜の採食行動におよぼす影響について検討した結果、低品質の乾草の嗜好性を改善させることができ、
Paulitaサイレージの高嗜好性の要因の一つとして、これらサイレージの特徴匂い成分が考えられた(第5章)。
本研究の結果から、フェストロリウムは北東北地域における採草用草種として有用な草種であるが、
調製されたサイレージの栄養価および嗜好性に関しては品種間差があり、導入品種の選定に関しては、
高栄養価飼料を求めるのか繊維質飼料を求めるのか等の利用場面を考慮して,
品種の特性を活かした選定をする必要があると考えられた。
また嗜好性の品種間差にはサイレージ調製によって生じる匂い成分が要因の一つであることが明らかになり、
このことは、現在、フェストロリウム新品種の開発が盛んに行われている我が国育種分野に対し、
より嗜好性の高いフェストロリウム品種開発のための基礎知見となると考えられる。
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