カドミウム(Cd)のchelator-assist-phytoremediationのためのムギネ酸類(ファイトシデロフォア;PS)の役割、
各種の金属吸収に対するCdの影響、そして、Cd吸収に対する各種の金属の影響を水耕オオムギ(Hordeum vulgare L. cv. Minorimugi)を
用いて検討し、以下の結果を得た。
(1)水耕栽培植物のCd吸収に対するpHの影響が調査した。
植物は、この論文中で+Fe培地と呼ばれる連続通気された1/2濃度のHoagland&Arnon No. 2改変培地で育てた。
培地に5μmol L-1のCdSO4を加え、pHは4.5、5.5(対照標準)、6.5、7.5へ調整し、植物を8日間栽培した。
その結果、特に根部において、Cd吸収がpH上昇により増加した。
これは、高pHによりCdが水酸化物を形成し、水酸化Cdの根への沈着により根表面のCd濃度が増加し、植物のCd吸収が増加したと推測された。
(2)植物のCd吸収に対するPSの役割を調査した。
まず、Feゲルと不溶性Cdの混合溶液からCdを可溶化するための、PSの能力を試験した。
その結果、PSはCdSゲルからCdを可溶化し得ることが示された。
次に、5 μmol L-1のCdSO4を含む培地へ、PSを0または10 μmol L-1加え、-Feまたは+Fe植物に4時間吸収させた。
その結果、MAによる、植物のCd吸収促進効果は見られなかった。
この結果は、PSは不溶性Cdを可溶化能はあるが、PS-Cd錯体は根に吸収されないことを示唆した。
また、Cdのchelater-assist-phytoremediationのためのPSの主な役割は、Cdを根圏へ集め、根圏のCd濃度を高めることであると考えられた。
(3)植物のPS分泌に対するCdの影響を調査した。
Cd過剰処理した-Fe、または、緩い銅(Cu)過剰の植物のPS分泌量を測定した。
その結果、-Fe植物のPS分泌は、0.05 μmol L-1 CdSO4により少し減少し、0.5または5 μmol L-1 CdSO4により強く減少した。
これらの結果は、Fe欠処理により誘導されたPS分泌は5 μmol L-1 Cdにより阻害されることを示した。
また、土壌溶液中のCd濃度が低い土壌で育った植物は、PSを分泌し得ることを示唆した。
(4)植物のMn、Fe、Cu、そしてZnなどの金属の吸収に対するCdの影響が試験された。
植物は、+Fe培地、-Fe培地、緩いCu過剰培地、またはCu濃度の高い-Fe培地で生育させた。
その結果、どの培地の植物も、Mn吸収はCd過剰により減少した。
Fe吸収は、+Fe培地で生育した植物において、Cd過剰により減少した。
植物の地上部における、Cuの蓄積量と濃度は、植物が+Feまたは-Fe培地で生育した時にCd過剰により減少し、
根へのCu蓄積量と濃度は、植物がCu濃度の高い-Fe培地で生育した時にCd過剰により減少した。
地上部におけるZnの蓄積量と濃度は、植物が-Fe培地で生育した時、Cd害により減少した。
この結果から、Mn吸収はCd過剰に感受性であると示された。
Zn吸収に対するCdの影響は、この実験においては小さかった。
植物のFe吸収と、Cuの地上部への移行は、植物が+Fe培地で生育した時にCd過剰により減少し、
これらの金属吸収のCd過剰に対する反応は、培地中の栄養元素濃度が変化した時に変化すると示された。
これは、植物におけるCd過剰症は、根圏における他の金属濃度の増加により軽減されると示唆した。
(5)培地の各種の金属の濃度変化による、植物のCd吸収への影響が調査された。
培地のFe濃度に関しては、-Fe培地で生育した植物のCd吸収は+Fe培地で生育したものより高く、
+Fe過剰培地で生育した植物のCd吸収は通常の+Fe培地で生育したものよりも低かった。
さらに、-Fe培地で前培養しCdを含む+Fe培地へ移植した植物の乾物重は低かったが、
Cd蓄積量は、+Fe培地で前培養しCdを含む+Fe培地へ移植したものと等しかった。
前培養の培地のFe濃度に関わらず、Cdを含む-Fe培地へ植物を移植した時、+Fe培地へ移植した植物と比べ、特に根部のCd含量が高かった。
Cu過剰植物のCd吸収は+Fe培地で生育した植物よりも低く、-Fe培地においても、植物のCd吸収はCu過剰により減少した。
培地のMg濃度増加により、植物のCdの蓄積量、濃度、移行率は減少した。
これらの事実は、植物のCd吸収抑制のための、Mgと他の微量必須金属(FeとCu)間の違いを示した。
今後、Cd過剰症に対するこれら金属の阻害メカニズムについて検討を要する。
また、phytoremediationによるCdの除去が困難な畑地や湿地において生育した穀物のCd濃度抑制のために、
各種の栄養元素の施用が試されるべきである。
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