氏 名 よこい よしお
横井 義雄
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第129号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 北海道上川地方における丘陵地土壌の理化学的特性と土壌改良対策に関する研究
( Physico-chemical characteristics and improving methods of the soils in hilly area of Kamikawa district,Hokkaido )
論文の内容の要旨

 上川地方には、いくつかの丘陵地が発達している。 これらの丘陵地は農耕地として利用されているが、丘陵地に分布する土壌の性質や問題点及び改良管理については、 あまり明らかにされてこなかった。 本研究は、丘陵地に分布する土壌の問題点を摘出し、各種の改良法を提案したものである。

 美瑛丘陵地は、十勝岳を噴出源とする火砕流堆積物から生成されている。 この丘陵地の地形は丘陵地上部と丘陵地下部(末端部)で大きく異なっているため、土壌生成も異なっている。 すなわち丘陵地上部では、堆積された火砕流がその後長期にわたって侵食を受けた結果、狭い丘頂面と広い丘腹斜面が形成された。 同時に、土壌移動に伴って地形条件に対応する土壌分布が形成された。 他方、丘陵地下部(末端部)は、数百万年前の海進期に水没し、水中での粒径淘汰により細粒化が起こった。 その後、海退に伴い土壌が脱水と圧縮を受け、堅密な土層が生成された。 そして、末端部の起伏面では細粒質褐色森林土が生成され、また平坦面では灰色台地土が生成された。

 長い年代経過とともに、丘陵地上部では、狭い丘頂面と広い丘腹斜面が形成され、丘腹斜面の上部から下部への土壌移動が盛んに行われた。 その結果、斜面上部では土層が薄くなり、また斜面下部には上部で受蝕された土壌が堆積し厚い土層が形成された。 その結果、受蝕と堆積の程度によって土壌の断面形態や理化学性に変化をもたらした。

 このような傾斜地において農業を行うと、土壌侵食がさらに助長され、農業機械の運行や作業性も制限されるため、 適正な土壌管理や施肥管理が困難となり、作物生産にも大きな影響を及ぼす。

 このような問題を克服するため、丘陵地上部では地形修正を実施し、農業機械の走行を改善し、土壌侵食の発生を回避してきた。 しかし、地形修正の実施により土壌の理化学的性質が悪化した。
すなわち、地形修正の施工に伴う下層の竪密化および表土処埋時に混入される下層土により理化学性が悪化するため、 これに対する対策もあわせて行う必要が生じた。 本研究は石灰・リン酸資材、有機物、微量要素の施用および客土によりこの問題を緩和できることを明らかにし、 これらの施用基準を策定した。
さらに、丘陵地下部(末端部)の細粒質褐色森林土および細粒質灰色台地土の作土層は固結し易く、 耕起後、降雨があればクラストの生成が著しく、作物生産に大きな影響を及ぼしている。 この軽減対策として、砂質火砕流堆積物を客土することにより、砕土性を向上させ、 クラスト硬度を低下させることにより出芽の確保が図られ、生産性が向上することを明らかにした。

 他方、丘陵地末端部に分布する灰色台地土の下層土は、著しく堅密であるため作物根の下層への伸長が制限され、 降雨の下層への浸透が遅く、多雨時には停滞水を生じ、作物は湿害を受けている。 このような堅密土層に対しては、慣行の心土破砕では効果が小さいので、心土破砕時に破砕部分にバーク堆肥などの 疎水材を投入する有材心土改良耕を行うことで、停滞水の下層への排除および根の下層への伸長が促進され、 作物にとって安定な生産環境となることを明らかにした。

さらに、上川地方には、安山岩質火砕岩、段丘堆積物、降下火山灰など、母材の異なる丘陵地が発達している。 これら丘陵地の間では土壌侵食や微量要素含量に差のあることが想定されたので、母材と土壌侵食および微量要素との関係について解明した。 丘陵地における土壌移動は、母材が安山岩質火砕岩の場合、斜面上部と斜面下部の差が小さく、土壌侵食の発生は少なかったが、 母材が火砕流堆積物の場合、斜面上部から斜面下部へ土壌移動が大きく、土壌侵食の発生が大きかった。 また、火砕流堆積物の上に火山灰を堆積している土壌では、二者の中間的値を示した。 次に、土壌母材と微量要素含量との関係をみると、安山岩質火砕岩では、亜鉛および銅含量とも高い値であったが、 火砕流堆積物ではいずれも低く、また、段丘堆積物では両者の中間であった。

 さらに、火砕流堆積物を母材とする褐色森林土では、可給態亜鉛含量は粗粒質母材で少なく細粒質母材で多い傾向にあった。 他方、可給態銅含量は腐植含量の少ない土壌で多く、腐植含量の多い土壌で少ない値を示し、 同一母材でも粒径組成や腐植含量および微地形の差が微量要素含量に影響していることを明らかにした。

 以上のように、本論文は北海道上川地方の丘陵地に分布する農耕地を、地形、母材、土壌の種類から類型化し、 それぞれの地域における作物生産力低下要因を絞り込み、それらに対する土壌学的および農業土木的解決策を多方面から解明したものである。