氏 名 やまぎし のりこ
山岸 紀子
本籍(国籍) 大阪府
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第128号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 ダイズわい化ウイルスの媒介アブラムシ特異性を支配するゲノム領域の同定およびゲノム情報に基づいた系統識別法の開発
( Identification of the viral genomic element responsible for the aphid vector specificity of Soybean dwarf virus , and strain differentiation based on the genome sequences )
論文の内容の要旨

 本論文は、ダイズわい化ウイルス(Soybean dwarf virus ; SbDV)の媒介アブラムシ特異性に 関与するウイルス遺伝子を明らかにすると共に、ウイルスゲノム情報に基づいた系統識別法を確立したものである。 まず、(1)篩部局在性のため植物体への機械的接種が極めて困難であるSbDVについて、ダイズへの機械的接種法を開発した。 続いて、(2)SbDVの媒介アブラムシ特異性を支配するウイルスゲノム上の領域を同定した。 また、(3)SbDV感染植物に特異的に蓄積する低分子サブゲノムRNA(S-sgRNA)の同定と構造解析を行った。 そして、(4)ゲノムの塩基配列情報と(2)および(3)で得た知見を総合して、 RNAドットブロット法によるSbDV系統識別法の開発を行った。結果は以下のように要約される。

(1)SbDVのダイズへの機械的接種法の開発
 SbDV-DS系統ゲノムの全長cDNAクローン(pSV-DSmおよびpSV-DSs)を鋳型として合成したゲノム全長領域のin vitro 転写RNAを、 パーティクルボンバードメントによってダイズの初生葉に接種した。 その結果、接種葉全てにおいてウイルスRNAの複製に伴って蓄積するSbDV特異的RNAが検出されたことから、 SbDVのゲノム全長in vitro 転写RNAが感染性を有することが明らかになるとともに、 SbDVをアブラムシを用いずに直接ダイズに接種することに初めて成功したことが確認された。 pSV-DSs由来in vitro 転写RNAが全身感染したダイズを用いてウイルスの性状を調べた結果、 in vitro 転写RNA由来ウイルスは、ダイズでの病徴、およびジャガイモヒゲナガアブラムシによる媒介性ともに DS系統の自然分離株と同様の性状を示した。 また、アブラムシによる継代接種を繰り返してもその性状に変化は生じなかった。

(2)SbDVの媒介アブラムシ特異性を支配するウイルスゲノム上の領域の同定
 ジャガイモヒゲナガアブラムシにより媒介されるSbDV-DS系統ゲノムのORF5のN-RTD領域を、 ツメクサベニマルアブラムシによって媒介されるDP系統ゲノムの当該領域と置換した組換えウイルスの全長 cDNAクローン(pSV-DSs(N-RTD:DP))を構築し、ゲノムのin vitro 転写RNAを、(1)で開発した方法でダイズに接種した。 続いて、in vitro 転写RNAの接種により全身感染したダイズを用いて、組換えウイルスのアブラムシ媒介試験を行った。 その結果、組換えウイルスはジャガイモヒゲナガアブラムシでは全く媒介されず、 ツメクサベニマルアブラムシによって高率に媒介された。 また、この組換えウイルスによるダイズでの病徴や感染植物におけるウイルスRNAの蓄積パターンはN-RTD領域を置換する前と変わりなかった。 以上から、SbDVの媒介アブラムシ特異性は、ウイルスゲノムのORF5のN-RTD領域によって支配されていることが明らかとなった。

(3)SbDV感染植物に特異的に蓄積する低分子サブゲノムRNA(S-sgRNA)の同定と構造解析
 SbDV4系統(DS,DP,YSおよびYP)が感染した植物に特異的に蓄積するSbDV由来低分子RNA の存在が明らかとなったため、 DSおよびYP 系統の当該低分子RNAについて、5'RACE法と変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてゲノムとの位置関係を明らかにした。 その結果、これら低分子RNAはゲノムの3'末端領域に由来するサブゲノムRNA(S-sgRNA)であることが明らかとなった。 また、構造解析の結果、DS系統のS-sgRNAは220塩基からなり、一方YP系統のS-sgRNAは262塩基と219塩基の2種類であること、 またこれらS-sgRNAには共通するORFは存在しないことが明らかとなった。 YP 系統の262塩基のS-sgRNAはそのgRNAの5'末端配列と相同性を示し、また、 DS系統のS-sgRNAとYP系統の219塩基のS-sgRNAの5'末端配列も高い相同性を有していた。 これらのS-sgRNA全てに5'末端にステムループ構造を取り得る配列が存在することが確認された。 また、S-sgRNAは植物種や植物の生育ステージに関わらずSbDVの感染細胞に安定して蓄積することが明らかとなった。

(4)RNAドットブロット法によるSbDV系統識別法の開発
 これまでに報告されているSbDVの4系統を識別して検出する目的で、病徴型を識別するYおよびDプローブ、 媒介アブラムシ種を識別するSおよびPプローブを、SbDV4系統のゲノムの塩基配列情報と(2)および(3)で得た知見を総合して作製した。 これらのプローブを用いたRNAドットブロット法により圃場で採集したSbDV分離株を診断したところ、 その結果は分離株の生物検定による結果で得られた病徴型および媒介アブラムシ種と一致したため、 本法が実用的に4系統を識別できる方法であることが明らかとなった。また、本法はアブラムシからのSbDVの検出にも利用可能であった。