メロン栽培において,つる割病は重要な土壌病害の一つであり,その防除のために接ぎ木栽培が行われることが多い.
1990年代になり我が国でもメロンつる割病菌(Fusarium oxysporum. f.sp. melonis )レース1,2yによる被害が拡大し,
既存の品種では対応が困難になった.
そのため,抵抗性台木品種の開発が急務となった.
このような状況下で育種のための基礎情報を得るため,本研究ではまず抵抗性の遺伝変異の調査および遺伝解析を行った.
レース1,2y抵抗性はネットメロン(Cucumis melo L. var. reticulatus )では比較的変異が大きかったが,
抵抗性が強いとされるシロウリ(C. melo var. conomon )の'東京早生(丸葉)'より強い品種はなかった.
冬メロン(C. melo var. inodorus )は変異が小さく抵抗性も弱かった.
マクワ(C. melo var. makuwa )では抵抗性強の品種が多く,
供試した6品種中2品種が'東京早生(丸葉)'と同等程度の抵抗性を示した.
このように,レース1,2y抵抗性の遺伝変異はメロンの系統分化と関係があると推測された.
つぎにレース1,2y抵抗性に広い変異を示すネットメロン6品種とシロウリ1品種の計7品種を選定し,
それらを親とする7×7の総当たり交雑によるダイアレル分析を行った.
その結果,レース1,2yに対する発病度は,狭義の遺伝率が0.81と高く,正逆交雑に差はなく,遺伝的変異の大部分は相加効果によるものであり,
優性効果は小さいことが明らかになった.
また,'東京早生(丸葉)'は相加的遺伝子の他に劣性の抵抗性遺伝子を持つと推定された.
これらの結果から,強い抵抗性を有する台木品種の育成には相加的な効果を有する抵抗性遺伝子の集積に加え,
シロウリの'東京早生'が持つ劣性抵抗性遺伝子を導入することが効果的であると考えられた.
そこで、相加的効果をもつ抵抗性遺伝子を多く集積している 'メロン中間母本農1号'を種子親に,
劣性抵抗性遺伝子を有する'東京早生(丸葉)'を花粉親にした系統育種法による純系品種の育成を開始し,
抵抗性台木品種'どうだい1号'を開発した.
それら親品種の交配後代を用いて選抜効果を確認したところ,遺伝解析での予測どおりF2世代で顕著な効果が見られた.
この選抜効果は主として相加的効果を有する比較的少数の微働遺伝子の同型接合化によると考えられ,
両親の遺伝的背景が大きく異なっていることと関係することが示唆された.
さらに,F3からF5系統までの世代でも緩やかな選抜効果がみられ,
F3世代以降においても相加的効果を有する抵抗性微働遺伝子の同型接合化が進んだためと考えられた.
これらの知見から今後レース1,2y抵抗性育種にあたって,分離初期世代での選抜が有効であることが示された.
さらに,レース1,2y 抵抗性が根端組織内でどのように発現しているか蛍光顕微鏡を用いて観察した.
供試材料は'どうだい1号'と育成に用いた親品種およびF1からF6世代を用いた.
レース1,2yの菌糸は根冠部および根端から約1.5 mmの範囲内の分裂帯および伸長帯から根組織内に侵入する場合が多く,
抵抗性が強い品種・系統ほど根端部分への菌糸の感染率が低く,侵入した菌糸長も短いことが明らかになった.
特にF2世代における選抜で顕著な感染率の低下および侵入した菌糸の抑制が観察された.
これらの現象はレース1,2y抵抗性に広い変異を示すメロン5品種においても確認された,
よって,レース1,2y抵抗性の獲得は,根端におけるレース1,2y菌糸の感染率の低下と,侵入した菌糸の伸長抑制にあると考えられた.
レース1,2y発生圃場で強い抵抗性を示す'どうだい1号'は,普及の過程で穂木に草勢が強い品種を用いた場合には収量が低下すること,
レース2に真性抵抗性を有しないこと,および胚軸が短く接ぎ木作業に難のあることが指摘された.
そこで,これらの問題点を解決するため'バーネット'を種子親に'どうだい1号'を花粉親にしたF1品種'どうだい2号'を育成した.
'どうだい2号'のレース1,2y抵抗性は両親品種のほぼ中間となったが,草勢が強い穂木品種に対しても十分な収量性を有する
実用性台木品種であることが確認された.
'どうだい2号'のレース1,2y抵抗性が両親品種のほぼ中間となったのは,両親品種が保有する相加効果を有する
レース1,2y抵抗性微働遺伝子の多くの部分がヘテロ接合したことと'どうだい1号'が有する劣性抵抗性遺伝子の
発現が'バーネット'の優性遺伝子によって抑制された結果と推察された.
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