本研究は、秋播性コムギを根雪前に播種する「冬期播種栽培」を行うことによって、
水稲などの夏作物の収穫と秋播コムギの播種の作業競合を軽減する目的で、
「冬期播種栽培」によって生起する諸問題を栽培・管理法によって解決するため、5課題について試験を行った。
1.冬期播種栽培に適した品種の選定と播種法
「冬期播種栽培」の播種は、岩手県では最適な播種時期が12月上旬~下旬であること、耐寒雪性の弱い品種は適さないこと、
耐寒雪性の強い品種でも越冬後の茎数確保のため播種量を増加すること、
最適播種量は350粒/㎡で最も安定した子実収量が得られることなどを明らかにした。
2.冬期播種栽培における施肥法
基肥窒素量を10g/㎡を側条施用することによって、越冬後の窒素吸収が早まり、初期生育が促進され、
倒伏せず秋播栽培と同等以上の収量が得られることを明らかにした。
また、穂揃期に普通畑で2g/㎡、水田転換畑の日本めん用では2g/㎡、パン用では4g/㎡の窒素追肥によって、
最適な子実タンパク質含有率を得ることができた。
3.冬期播種栽培における病害および雑草防除
病害の発生様相は、冬期播種栽培が秋播栽培に比べ無防除ではうどんこ病、赤さび病の発生が多く、
赤かび病では開花期頃の降雨の期間と量の差による影響が大きいと推察さるが、いずれの病害においても、
秋播栽培における慣行の防除体系が冬期播種栽培にも適用できると判断された。
また、雑草防除は、除草剤1回処理でも慣行の秋播栽培並みに雑草を制御できることを明らかにした。
4.冬期播種栽培によるコムギ縞萎縮病の被害回避
冬期播種栽培には、土壌伝染性ウイルス病害であるコムギ縞萎縮病の発病に高い抑止効果があり、この高い発病抑止効果は、
冬期播種栽培を連作しても維持された。
冬期播種栽培は、発病程度の高い秋播栽培に比べて、子実収量が最大で149%高かった。
また、冬期播種栽培は,秋播栽培におけるTPN粉剤処理による防除効果と比較しても、コムギ縞萎縮病の発病程度は低く、
コスト的にみても有利な耕種的防除法であると言える。
5.冬期播種栽培したコムギの加工品質
冬期播種栽培は、秋播栽培よりも成熟期が3~5日遅くなるものの、7月上旬の収穫が可能であり、
熟期の遅れによる降雨の品質への影響を回避できた。
製粉特性や60%粉の色相、ファリノグラム特性値、原粒や60%粉のタンパク質含有率に明らかな差はみられなかった。
また、パン体積やパンの官能試験は秋播栽培を上回った。
このことから、冬期播種栽培では子実の外観品質のみならず、加工品質においても秋播栽培と同等以上であることが明らかとなった。
以上のように、これまでにない画期的な栽培法で、この「冬期播種栽培」は従来の栽培法に比較して、収量、品質の面で遜色がなく、
作業分散が計られ、縞萎縮病の軽減にも貢献し、結果的に小麦の安定生産に寄与する研究成果が得られたもので、
北東北の小麦の安定栽培に対し、応用の面で大きな貢献を果たすことができる。
よって、本論文は博士(農学)の学位論文として十分価値を有するものと認めた。
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