氏 名 わたなべ しゅうじ
渡辺 修二
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第117号
学位授与年月日 平成18年9月29日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 二本鎖RNA依存性プロテインキナーゼと相互作用する新規二本鎖RNA結合タンパク質に関する研究
( Study on the interaction of dsRNA dependent protein kinase with a novel dsRNA binding protein )
論文の内容の要旨

 二本鎖RNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)は、インターフェロンによる抗ウイルス作用の発現に関与するほか、 アポトーシスや細胞増殖、転写調節等における細胞内シグナル伝達にも関与し、多様な機能を有することが明らかにされつつある。 PKRはこれらの多様な機能の発現の際に、様々な因子によりその活性発現や細胞内局在性が調節されると考えられている。 PKR 調節因子として、PKR結合タンパク質がこれまで数多く報告されているが、 実際のシグナル伝達系路における調節機構については依然として不明な点が多い。 本研究ではPKR特異抗体による免疫沈降とウエスタンブロッティングによる新規のPKR調節因子の検索と同定を行い、 PKRと相互作用する新規タンパク質を見つけ、その性質を明らかにした。

(1) HeLa細胞から調製したS10抽出液を用い、Poly (I):Poly (C) Sepharoseと[γ-32P]ATP存在下でリン酸化アッセイを行った。 30°C 20分間インキュベートしてリン酸化反応を 行った後、オートラジオグラフィーによりリン酸化されたタンパク質を検出した。 この結果、リン酸化PKRと推察される68 kDaのバンドに加え、120 kDa付近に特異的にリン酸化されたタンパク質のバンドが検出された。

(2) リン酸化アッセイで検出されたタンパク質の分子種を同定するために、 二本鎖RNA結合領域を含むPKRのN末端を抗原として抗PKRn抗血清を調製し、ウエスタンブロッティングを行った。 この結果、PKRと推定される68 kDaのバンド及びマイナーな72 kDaと120 kDaのバンドが検出された。 72kDaバンドについては、その後の解析によりケラチン様タンパク質であることが確認された。 120 kDaのバンドについては、二本鎖RNA結合ドメインを持つタンパク質であることが推測された。

(3) 抗PKRn抗血清を用いたウエスタンブロッティングで検出された120 kDaタンパク質の二本鎖RNAに結合性を、 Poly (I):Poly (C) Sepharoseカラムへの結合性で解析した。 この結果、PKRと同様に120 kDaタンパク質が結合分画で検出されたことから、120 kDaタンパク質は二本鎖RNA結合能を持つことが示唆された。 この結果から、この120 kDaタンパク質をdouble stranded-RNA binding protein 120 kDa: DRBP120と命名した。

(4) DRBP120とPKRが相互作用するか免疫沈降法により調べた。 この結果、PKRとDRBP120の共沈降が認められたことから、PKRとDRBP120が相互作用することが示唆された。 また、免疫沈降を行う前にPoly (I):Poly (C)とATPを加えてインキュベートした場合において、共沈降するDRBP120が増加した。

(5) DRBP120の細胞内局在性を調べた。 この結果、DRBP120は細胞質と核の両方に存在し、特に核内に多く存在することが示された。 また、細胞質の分画ではP100で検出された。  PKRも核と細胞質に存在し、細胞質ではP100分画に多く存在することが示された。 両タンパク質は細胞質内での分布がほぼ一致することから、細胞質中及び核内で相互作用する可能性が示唆された。

(6) 核抽出液を用いて免疫沈降を行い、DRBP120とPKRの核内での相互作用を検討した。  この結果、DRBP120の共沈降が確認され、DRBP120とPKRが核内で相互作用することが示唆された。 また、S10抽出液を用いた結果同様にPoly (I) : Poly (C) およびATP存在下インキュベートすると共沈降する DRBP120の量が増加した。

(7) NFAR2はPKR結合タンパク質であり、DRBP120に類似した特徴を持つことから、DRBP120がこの分子種の可能性が想定された。 そこでDRBP120がNFAR2であるかどうか検証するため、NFAR2に対する抗体を作成し、ウエスタンブロッティングを行った。 この結果、NFAR2はDRBP120より低い位置に検出された。 また、二次元電気泳動の結果、NFAR2は異なるスポットとして検出された。 この結果からDRBP120はNFAR2とは異なるタンパク質であることが示唆された。

 本研究において見出した新規タンパク質DRBP120はPKRと細胞質と核の両方で相互作用し、  PKRの細胞内局在性の決定に重要な役割を果たすと同時に、PKRの調節因子として機能する可能性が推定された。