本研究では、反芻家畜のタンパク質代謝動態に及ぼす非タンパク質エネルギーの影響を調べるために、
非タンパク質エネルギーの量と質を変えた3つの条件で飼養した雄ヤギを用いて、[2H5] Phe同位元素希釈法により検討した。
また窒素出納法による窒素代謝の評価、および[13C6]グルコースによるグルコース代謝動態の評価、
hyperinsulinemic euglycemic clamp法による組織のグルコース代謝におけるインスリンに対する反応性および感受性の評価を同時に行い、
窒素代謝、タンパク質代謝、グルコース代謝の関係についても検討した。
実験1および2では、非タンパク質エネルギー摂取量の影響について検討した。
エネルギー摂取量の操作は、実験1では精製トウモロコシデンプンを添加することによって、
実験2では給与飼料中の粗タンパク質量および粗飼料の比率を一定に保ちつつ、乾草、トウモロコシ、
および大豆かすの給与量を変えることによって行った。
日本ザーネン種雄ヤギ(実験1では4頭、実験2では3頭)に粗タンパク質が一定(実験1では維持の1.6倍量、実験2では維持の1.5倍量)で、
代謝エネルギー量が維持量の1.0、1.5 および 2.0倍量の3種類の飼料を給与した。
得られた結果は実験1と2 でおおむね一致した。
エネルギー摂取量の増加に伴い、糞中窒素排泄量の増加により可消化窒素量は低下したが、尿中窒素排泄量が低下したため、窒素保持量は増加した。
またエネルギー摂取量の増加に伴い、採食後6時間における第一胃内のアンモニア態窒素濃度の低下、
採食後5~7時間における血漿中の尿素態窒素濃度の低下、血漿総アミノ態窒素濃度、Phe およびTyr濃度の増加がみられた。
採食後5~7時間におけるPheおよびTyrのフラックス、全身タンパク質合成速度もエネルギー摂取量の増加に伴い増大した。
グルコースフラックスはエネルギー摂取量の増加に伴い増加し、さらに組織のグルコース代謝におけるインスリンに対する
反応性もしくは感受性もエネルギー摂取量の増加に伴い増大もしくは増大する傾向がみられた。
これらの結果から、デンプンとしての非タンパク質エネルギー摂取量の増加は、総吸収窒素量を低下させるものの、
アンモニアとしての窒素吸収を低下させ、アミノ酸の吸収量を増加させることにより動物が利用できる窒素の量を増加させて、
全身タンパク質合成速度および窒素保持量を増加させることが示唆された。
またこれらの変化には、グルコース代謝の亢進と組織のインスリンに対する反応性の増大によるエネルギー供給の増加が関与しているものと考えられた。
実験3では、非タンパク質エネルギーの質の影響を検討した。
日本ザーネン種雄ヤギ4頭に代謝エネルギーおよび粗タンパク質がそれぞれ維持の1.2倍、粗飼料:濃厚飼料 = 1:2の飼料において、
代謝エネルギーの30 % をトウモロコシデンプン、トウモロコシデンプン:ショ糖 = 1:1、および ショ糖で代替した飼料を給与し、
上述の測定を行った。
ショ糖給与により、採食後 6 時間での第一胃pHの上昇、アンモニア態窒素濃度の増加、酢酸濃度および比率の低下、
プロピオン酸比率の増加がみられた。
血漿中のグルコース、乳酸およびプロピオン酸濃度は採食後 3時間ではショ糖給与により増加したが、
この変化は採食後5~7時間および 13時間ではみられず、他の血漿代謝産物およびインスリン濃度には採食後のいずれの時間においても
ショ糖給与による影響はみられなかった。
また採食後 5~7 時間でのPheおよびTyrフラックス、全身タンパク質合成速度はショ糖給与による影響を受けず、
尿中および糞中窒素排泄量および窒素保持量も影響を受けなかった。
採食後5~7時間でのグルコースフラックスにはショ糖給与による影響はみられなかったが、
組織のグルコース代謝におけるインスリンに対する反応性および感受性には統計的に明らかではないものの、
ショ糖給与による数値的な増大がみられた。
これらの結果から、エネルギーの一部をデンプンからショ糖へ代替した場合、ショ糖は採食後短時間では第一胃および血漿の代謝産物濃度に
若干の影響を及ぼすものの、これらの変化は採食後の時間経過とともに急速に消失するため、窒素代謝、
タンパク質代謝およびグルコース代謝には明らかな影響を及ぼさないことが示唆された。
本研究において実施した3つの実験の結果から、反芻家畜のタンパク質代謝とグルコース代謝は、少なくとも炭水化物の場合、
非タンパク質エネルギー摂取量により大きな影響を受けるものと考えられた。
これは、エネルギー摂取量の操作により、粗タンパク質摂取量を低減させることができる可能性を示している。
一方、エネルギーの質に関しては、本研究では十分には検討できなかったが、デンプンとショ糖を比較した場合、
少なくとも摂取エネルギーの一部として1日2回給与した場合、反芻動物の窒素、タンパク質およびグルコース代謝に対する効果は
大きくは異ならないものと考えられた。
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