氏 名 さいとう あきら
斎藤  彰
本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第112号
学位授与年月日 平成18年9月29日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 リンゴ培養シュートへの放射線照射による斑点落葉病抵抗性個体選抜及びリンゴの細胞培養と植物体再分化に関する研究
( Selection of mutants resistant to Alternaria blotch from invitro cultured apple shoots irradiated with X- and γ-rays, and the studies on cell culture and plant regeneration in apple )
論文の内容の要旨

 リンゴ斑点落葉病に感受性の品種の培養シュートにX線あるいはγ線を照射して、 従来の形質はそのままで病害抵抗性に変異した個体を作出するための基礎試験を行い、品種'ふじ'、'北斗','王林'で抵抗性の系統が得られた。 また、リンゴの細胞培養系確立のため、リンゴ台木'マルバカイドウ Mo84-A'と、品種'ふじ'の茎頂分裂組織から誘導した懸濁培養カルスや 品種'ふじ'のプロトプラスト由来カルスを用いて、再分化培地に添加する植物調節剤の種類と濃度が、不定芽形成率に及ぼす影響について検討された。

第1章ではリンゴ培養シュートへの放射線照射による斑点落葉病抵抗性個体選抜について検討された。 抵抗性個体選抜を効率的に行うために、リンゴ斑点落葉病に対する抵抗性程度の異なる4品種の苗木を用いて、 AM-toxinによる検定法について検討した。 その結果、毒素濃度と供試葉位との組み合わせによって品種の抵抗性検定が可能であった。 毒素濃度では1μM及び0.1μMの濃度で、供試葉位は第3葉を用いるのが有効と思われた。 また、本病に対する抵抗性程度の異なる5品種の培養シュートを用いてAM-toxinのシュート褐変に及ぼす影響について調査した。 シュートでは野外の葉に比較して毒素抵抗性が高く、葉で有効と思われた毒素濃度より10倍高い濃度の10μMで品種の抵抗性検定が可能であった。 放射線照射による損傷程度を把握するため、品種'北斗'、'青り10号'の培養シュートにX線及びγ線を線量率及び線量を変えて照射した。 シュートの生存率は、線量ならびに線量率により差が認められ、どちらも高くなるにつれて生存率は低下した。 また、同じ線量でも品種間に生存率の差が認められ、放射線に対する感受性に品種間差が認められた。 品種'ふじ'、'北斗''王林'、'青り10号'の抵抗性個体選抜試験を行った。 これらの培養シュートに放射線照射後に生存した個体を3回継代培養して増殖した。 これらを鉢上げした個体の葉を用い、AM-toxinによる抵抗性検定により選抜を行った。 'ふじ'、'北斗'、'王林'では一次、二次選抜個体が得られたが、'青り10号'では選抜個体が全く得られなかった。 なお、選抜個体の中には病原菌接種しても全く発病しない個体があり、有望系統として選抜した。 品種'北斗'の選抜系統4系統について圃場における特性調査を行った。 平成13年~17年(5年間)の斑点落葉病の発病状況はいずれの年も、'北斗'選抜系統は原品種'北斗'に比較して発生が非常に少なく、 高い抵抗性が維持されていた。 また、平成15年に一部系統で初結実が認められ、その後も結実樹が増えてきたので、平成17年に結実した果実について 外観上の形質の変異や着色程度及び心かび病の発生程度を調査した。 その結果、原品種の果実と大きな差異は認められず、果実形質に関する劣悪な変異は認められなかった。

第2章ではリンゴの細胞培養と植物体再分化に関する研究が報告された。 培地に添加するサイトカイニンの種類ではBAや2ipよりもCPPUやTDZが不定芽形成率を高める傾向を示し、 特にTDZの添加が最も有効と思われた。 TDZの濃度では供試した2、3、5mg/lの濃度間では不定芽形成率に差が無く、2mg/lの添加が適当と思われた。 また、不定芽形成率を高めるためにはオーキシンやABAの添加も必須と考えられた。 オーキシンの場合、IAAを0.01~0.1mg/lの低濃度で添加すると形成率は高まるが、1.0mg/lの濃度での添加では逆に抑制され、 その最適濃度はIAA0.1mg/lであった。 ABAの添加も同様に不定芽形成率を高め、ABA3mg/lの濃度を添加した区で最高の不定芽形成率であり、リンゴ品種'ふじ'でも同様の結果であった。 次いで、培地に添加する支持体の種類と濃度についても検討した結果、支持体の種類ではGelriteが Bacto-agarよりも不定芽形成率を高めるのに有効と思われた。Gelriteの濃度では0.5%及び0.7%の添加区で82%、94%と高い形成率を示した。 品種'ふじ'のプロトプラスト由来カルスからの再分化も同様な傾向を示し、 Gelrite 0.5%及び0.7%の添加区で頻度は低いながら再分化個体が得られた。 これらの再分化個体から苗木を育成し、形態変化の有無を調査したがいずれも変化は認められなかった。