氏 名 こみや みちお
小宮 道士
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第111号
学位授与年月日 平成18年9月29日 学位授与の要件 学位規則第5条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 自動搾乳システムの運用における最適化に関する研究
( Studies of Optimum Operation on Automatic Milking System )
論文の内容の要旨

 自動搾乳システムは1992年にオランダにおいて商用機の導入が始まって以来, 2003年末には13ヶ国以上でおよそ2200台が稼働している。 本論文は搾乳労働から作業者を完全に解放する自動搾乳システムについて,その搾乳効率に影響を及ぼす要因を整理し, 最適な利用技術の確立をねらいとする試験研究をまとめた。

 第2章では自動搾乳システムの運用面における評価を考える上で指標となる搾乳労働負担量を明確にするため, 慣行の搾乳方式のパイプラインとロータリパーラの2搾乳方式について作業内容や姿勢を解析した。 パイプライン方式での搾乳労働は,起立から踵鋸へと大きく姿勢が変わる場合や,ユニットの運搬時にパーラ方式に比べて 作業者の負担が大きいことが示された。 自動搾乳システムはパーラ方式と比較して半分以下の管理作業時間であることが示されており,その作業内容も姿勢変化を伴わないので, 後継者の不足から高齢化する酪農経営者にとって搾乳の労働負担を軽減する技術であることが証明された。

 第3章では自動搾乳システムを既に導入した農場と導入予定の酪農学園大学附属農場において乳牛の乳器形状や乳頭座標を測定し, 各個体の搾乳ロボットへの適合性を調べ,移行後の搾乳成功率からこれを検証した。 自動搾乳システム導入3農場の乳牛乳頭間隔は,産次が進むと前後の間隔は増加し,最低乳頭高さは減少した。 大学附属農場における初産牛の51%,2産の38%,3産以上の69%が搾乳ロボットの推奨条件でロボット搾乳に適さなかったが, ロボット導入3農場の牛群と比較した実際条件では不適合の割合が大幅に減少した。 移行前の調査で適合性が高かった個体は,移行後の搾乳成功率も高かった。 適合性の低かった3頭の個体も成功率は90%を越えた。 しかし,その他の個体は成功率が低かったことから,適合性の判定は正当であり,搾乳失敗による人的作業の増加と システムの効率低下を防ぐためには,導入前の乳牛選定が重要であることが示された。

 第4章では自動搾乳システムの運用に影響を及ぼす乳牛の乳頭位置,乳頭間隔について産次や分娩後日数による経時変化を調査,解析した。 また,乳牛の搾乳ストールへの進入,退出に要する時間を調べ,システムの稼動率を改善する音刺激による乳牛退出装置を試作してその効果を検証した。 その結果,搾乳機の装着失敗の原因となる泌乳期間の乳頭間隔変化量は初産次では大きくないが,産次を経る度に徐々に増大し, 特に前左右の変化量が大きく100日間で20mm以上減少する個体も認められた。 搾乳ストールへの進入に要する時間は,給餌時刻や回数,搾乳と通過によって異なったが,ストール内での濃厚飼料の給餌量や搾乳量は, 進入および退出に影響しなかった。 音刺激による退出装置は,開始後4日目までに退出に要する時間が短縮し,自動搾乳システムにおける稼働率の改善に効果が認められた。

 第5章では自動搾乳システムの効率的運用を図るため,理論搾乳頭数の数理的モデルについて検討した。 モデルの構築にあたり,3機種5農場で24時間,自動搾乳システムの搾乳作業時間を測定した。 また,自動搾乳システムの洗浄間隔を変えて,システムの実稼働時間を調査した。 その結果,作成した数理的モデルを利用することにより,乳牛の日乳量,平均搾乳速度,1回あたりの搾乳量など牛群泌乳性が システムを利用する農場によって異なる場合でも,搾乳能率を算出することが可能になった。 各システムの理論搾乳頭数は,牛群平均搾乳速度が2kg/minから3kg/minに増えると23~28%増加し, 平均日乳量が24kg/日から34kg/日に増えると29~30%減少した。さらに設定搾乳量を8kg/回から14kg/回に変えると, 理論搾乳頭数は21~32%増加した。 システムの洗浄間隔を変更することで実稼働時間は1.3~1.5%変化したが,これによる理論搾乳頭数の変化は約3%とその影響は僅かであった。

 第6章では自動搾乳システムの搾乳ストール内における給餌速度の数理的モデルを検討し,その検証試験を実施した。 さらに5章の理論搾乳頭数のモデルを用いて自動搾乳システムを導入した31農場の搾乳記録データを解析,比較して, 効率的なシステム運用の改善方法について検討した。 自動搾乳システムは不定時搾乳のため,未給餌量が翌日へ繰り越されるなどの理由で給餌速度の数理的モデルとの間に誤差が生じた。 システム導入31農場の解析から,自動搾乳システムにおける理論搾乳頭数を増減させる最大の要因は牛群の平均日乳量であることが判明した。 また,実用能力限度の稼働率90%を越える農場においても,設定搾乳量を2kg増すと稼働率は85%に減少することが示され, 搾乳頭数が多く稼働率の高い状況ほど,わずかな設定搾乳量の変更で搾乳頭数を変更せずに過密な運用状況の改善が可能であることを明らかにした。

 以上,本論文は自動搾乳システムの運用解析と数理的なモデルの提案を行い,システムを導入した個々の酪農場が, その能力を最大限に活用するための方法を示した。