本論文は青森県津軽地域を事例として,水田地帯における用水管理の実態、降雨の利用状況と水質,
用・排水の水質変化等を調査することにより,水源に乏しい地区で実施されている循環灌漑方式における水管理の特性を明確にした.
流出先の河川環境に与える影響が大きいと指摘されている代かき・田植期の流出負荷量に関しては,
隣接する掛流し灌漑地区(五所川原地区)との比較も行った.
さらに降雨時の水質変化,流出負荷量については水田地帯2地区と農村市街地(鶴田地区)、
森林地帯(白神暗門川)についても比較・検討を行った.
1.本論文の主体となる青森県つがる市平滝地区は,稲作中心の低平地水田地帯である.
13年間の水管理調査より本地区の地区内循環灌漑率は用水側で79%,排水側で73%と高率であり,
数百ha規模の水田地帯では日本有数の循環灌漑地区である.
2.循環灌漑地区における降雨の有効利用率は用水側105%,排水側で72%である.循環灌漑率と降雨の有効利用率には強い相関がある.
3.灌漑期の平均降雨水質(平滝地区)はCOD:1.87,T-N:1.40,T-P:0.093mg/lとなり,市街地である弘前大学の平均値よりやや小さい.
4.期別の水質変化では代かき・田植期の水質濃度はかなり高く,流出負荷量は代かき・田植期の排水量に大きく影響を受ける.
5.地区内循環灌漑を積極的に行うことによって,水田への肥料成分等還元量は溜池等からの用水による地区内流入負荷量の5倍以上である.
循環灌漑率と肥料成分還元量とは,相関係数0.9以上の強い関係が認められた.
6.利水形態の異なる水田地帯の水収支を検討した結果,掛流し灌漑地区は地区外からの用水に依存しているため,
循環灌漑地区に比較して取水量,排水量共に約4倍であった.
7.水質収支については,水田地帯2地区共に代かき・田植期と中干し期に流出負荷量が大きく,
特に掛流し灌漑地区ではこの傾向が顕著である.
循環灌漑地区に比べると流入・流出量共に大きく,単位面積当たりの流入負荷量は2~5倍,流出負荷量は3~7倍となっている.
他地区の調査事例と合わせて検討した結果,流出負荷量より流入負荷量が大きい「浄化型水田」に分布されるのは,
循環灌漑率の高い地区の事例が多く,特に平滝地区は他地区に比べ流入・流出負荷量共に少ない.
8.代かき・田植期における掛流し灌漑地区の流出負荷量は循環灌漑地区に比べ5~8倍と大きく,肥培管理や農作業管理の改善が必要である.
循環灌漑地区における代かき・田植期の流出負荷量は降雨量よりも排水量に影響を受けるため,
負荷量の軽減対策として幹線排水路に貯留機能を持たせることも考慮するべきである.
9.降雨時の水質変化は水田地帯で少なく,農村市街地では降雨初期に水質濃度が急激上昇するファーストフラッシュ現象が認められた.
森林地帯では小降雨での流量・水質にほとんど変化を示さないが,保水能力との関係もあり50mm以上の降雨では有機物質の増加がみられた.
10.土地利用,水管理の異なる4地区における降雨時の流出負荷量を検討するため,L~R式を用いて定量化を行った.
農村市街地と森林地帯はL~R式の寄与率が高く,水田の貯留効果や水管理によって流出負荷量が異なる水田地帯はデータにバラツキがみられた.
同一降雨量では掛流し灌漑地区と農村市街地からの直接流出負荷量が大きく,循環灌漑地区は小さかった.
森林地帯では50mm以下の小降雨量では流出負荷量が最も少なかったが,
100mm以上では掛流し灌漑地区や農村市街地の流出負荷量に近づく傾向を示した.
以上,用水源に乏しく,地区内還元水を積極的に再利用している平滝地区(循環灌漑地区)は降雨の利用率も高く,
農業用水を確保するとともに有機物質や栄養塩類等の利用も大きい.
その結果,排出先である河川や湖沼への流出負荷量が軽減され,水環境の改善にとっても有益であることが実証された.
農業用水の効率的な利活用と環境負荷の軽減を考えるとき,循環灌漑地区の水管理は有効な指針になる.
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