本研究では、農畜産副産物の高度利用を目的として、デンプンの製造過程で副生するポテトパルプおよび廃鶏の
皮部について、生理機能が報告されている脂質成分を食品化学的な視点から分析した。
その結果、ポテトパルプ中にはオクタコサノールを中心とした超長鎖アルコールが比較的多く含まれており、
その一部は抗酸化性を有するフェルラ酸エステルとして存在することを明らかにした。
また、ニワトリ表皮中に機能性食品素材として注目されているスフィンゴミエリンとプラズマローゲンが存在することを見出し、
これらの機能性脂質食品素材を製造する上で廃鶏皮が供給源として有用であることを提示した。
1.発酵ポテトパルプに含まれる機能性脂質
デンプン製造の副産物であるポテトパルプの排出量は北海道だけでも年間約10万トンにも達する。
ポテトパルプは水分含量が80%と高く、夏期から秋期に集中して発生して腐りやすい、家畜の嗜好性が悪い、などの問題があり、
ポテトパルプを畑に埋めているのが現状であった。
しかし、最近、乳酸生成糸状菌Rhizopus oryzae により乳酸発酵を行い、サイレージ化による家畜試料として、
あるいは機能性素材として有効利用する技術が開発されている。
本研究では、まずポテトパルプ中の脂溶性の機能性成分を分析し、次いでその乳酸発酵による脂質成分の変動を検討した。
ポテトパルプの脂溶性成分は微量(1.3%)であったが、構成脂肪酸としてラウリン酸からトリアコンタン酸までの22種が存在していた。
主な脂肪酸はオクタコサン酸とトリアコンタン酸で、炭素数20以上の超長鎖脂肪酸としては7種が認められた。
これらは、バレイショ皮部に由来するもので、ワックス画分にはほとんど検出されずに主として遊離の脂肪酸として存在することが示された。
超長鎖脂肪酸は、バレイショ皮部のスベリンの構成分として合成され、病害抵抗性に関与すると推測される。
食品機能性としては、ラットではLDL画分の酸化を抑制することが報告されている。
さらに、ポテトパルプ中には炭素数16から30までの13種の高級アルコールが検出され、
その主成分は様々な機能性(ストレス抵抗性の向上など)が知られているオクタコサノールであった。
高級アルコールもバレイショ皮部に由来する成分で、主としてフェルラ酸エステルとして存在しており、
そのものは既知のγ-オリザノールと同程度のラジカル消去活性を有することが実証された。
ポテトパルプの発酵物中には機能性脂肪酸として注目されているγ-リノレン酸やフレーバーに関わる脂肪酸エチルエステル類も検出された。
これらはR. oryzae 菌体によって生成された脂質成分であった。
また、乳酸発酵によってバレイショ皮部のスベリン関連物質が分解され、その構成分である超長鎖のアルコールや脂肪酸成分が
発酵ポテトパルプの脂溶性画分に増量化されることを見出した。
2.ニワトリ表皮に含まれる機能性複合脂質
日本では採卵鶏(廃鶏)処理量は約1億羽で16.3万トンに達しているが、廃鶏はブロイラーと比べ肉質が劣ることから廃棄される場合が多い。
このように廃鶏は大量に入手可能であり、且つ安全で安価であることから、本研究では廃棄される採卵鶏の皮部(表皮部)に含まれる
複合脂質の分析を行い、それを機能性食品素材として利用する方策を検討した。
廃鶏表皮部の脂質含量は30%程度で、そのうち複合脂質画分は2%であった。
主要な複合脂質クラスとしては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンが認められ、
複合脂質画分を弱アルカリで処理するとスフィンゴミエリンの他に著量のリゾホスファチジルエタノールアミンが生成した。
また、メタノリシスすることによって脂肪酸メチルエステルとジメチルアセタールが生じたことから、
ホスファチジルエタノールアミン型のプラズマローゲンが多く存在することが確認された。
ホスファチジルエタノールアミン画分の酢酸分解によって1,2-アシル,3-アセチル体(ジアシル体に由来)と
1,3-アセチル,2-アシル体(プラズマローゲン型に由来)を分離して分析した結果、
プラズマローゲン型ではアラキドン酸、オレイン産およびドコサヘキサエン酸がそれぞれ50%、23%および12%の割合で分布することが明らかになった。
複合脂質画分の1/3量を占めるスフィンゴミエリンは、構成スフィンゴイド塩基としてスフィンゴシンを有するヒト型スフィンゴ脂質であった。
経口摂取したスフィンゴミエリンには皮膚の保湿改善効果が期待でき、またプラズマローゲンにはアテローム性動脈硬化症の
発症予防効果や脳機能を活発にする作用が報告されている。
以上の結果から、廃鶏皮部から機能性複合脂質素材や高機能脂質含有食品原体が製造できると判断された。
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