氏 名 みのうら くにお
箕浦 邦雄
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第384号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 農業用トラクタ用水平方向サスペンションに関する研究
( Lateral Suspension Systems for Farm Tractors )
論文の内容の要旨

 本研究は,トラクタ座席における運転者の振動暴露を減少させ, 乗り心地と運転環境を改善する目的で開発した水平方向サスペンションに関する研究である。

 既往座席研究については,上下振動を減衰させることに重点がおかれ,水平方向,特に水平左右方向の振動を減衰させることについては, 重要視されてこなかった。 また,研究や実験時のトラクタ運転姿勢は,進行方向正面を向き,両手でハンドルを保持する姿勢で行われてきた。 また,これは実際の運転姿勢を反映しているとは言えず,実状に即していないことが考えられる。

 本研究では,トラクタ運転者の作業時における運転姿勢の実態を知るために,各作業中の後方視回数・時間および間隔等を実測・記録した。 その結果,運転者は作業中片手でハンドルを保持し,斜め右前方を向いた姿勢で運転していることが分かった。 後方視は,播種,移植作業で作業時間の4~7%,防除,収穫作業では30~50%であった。 また調査した11種の作業において,平均24 秒に一度後方視し,その継続時間は2秒という頻度であった。 この後方視は,防除作業や作畦作業など一部を除き,ほぼすべて右側から行われる。 農業者は長年にわたり,右側から後方視をする姿勢を続けたことで,右側から後方視しやすい姿勢で運転し,左側から後方視することは, 必要最小限である。 このことから,トラクタ座席や操縦装置は,座席の中心にある回転軸を左前方に移動して,座席を右方向に回転した際に, 右膝が操作装置などに接触しないようにするなど,無理なく右側から後方視が可能な機能を装備しなければならないことが分かった。

 トラクタ作業時における水平方向の振動は,作業によっては上下振動より大きいにもかかわらず,懸架装置が一部に見られるのみで, 未対策の分野である。 特に後方視のような体幹を捻った状態で暴露する左右方向の振動は,既往研究が多くは見られず,推察の範囲を出ないが, 腰椎などに障害をもたらす可能性があり,対策が必要と考えられる。

 本研究では,振り子型,スライドレール型,二つの水平方向サスペンションを開発・供試した。 また,市販座席に,メーカ提供の水平懸架装置を組み込んで供試し,比較検討した。

 試験の結果,市販の水平懸架装置装備の座席が,振動加速度を2~6 Hzの範囲で平均50%減衰したのに対し, 開発したスライド式水平懸架装置付座席,振り子型懸架装置付座席とも,それぞれ平均66%,81%減衰した。 このように,振り子型懸架装置は,全ての周波数設定,振幅設定において供試座席中,もっとも高い減衰率を示し, またその加振初期,および停止期の過渡特性も穏やかであり,体感試験においても効果が実感できた。 このことにより,振り子型懸架装置は,トラクタ用座席懸架装置として有効であることが確認できた。