氏 名 かさい あつし
葛西 厚史
本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第380号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 黄ダイズにおける種皮着色制御および種皮着色変異に関する分子機構の解明
( Molecular mechanisms of suppression and restoration of seed coat pigmentation in yellow soybeans )
論文の内容の要旨

 黄ダイズ育種および栽培現場において「黄色い」外観の維持は重要である。 もし、種皮着色変異によって予期せぬ着色が起きた場合、その品質を大幅に低下させる。 黄ダイズの種皮着色抑制には遺伝学的解析によりI 遺伝子の関与が示唆されていた。 しかしながら,I 遺伝子の構造および種皮着色抑制の分子機構についてはあまりわかっていなかった。 近年,I 遺伝子を有する黄ダイズ種皮において種皮着色色素であるフラボノイド類の生合成経路に重要なカルコンシンターゼ(CHS)の 活性が低下していることが報告された(Wang et al. 1994)。 さらにCHS 転写産物量が特異的に減少しており(Wang et al. 1994, Senda et al. 2002a), この特異的減少が転写後型ジーンサイレンシング(PTGS)に起因していることが明らかとなった(Senda et al. 2004)。 一方,黄ダイズゲノムでは CHS 遺伝子の1つであるICHS1 と5' コード領域の欠損したCHS3ΔCHS3 )が約680 bpの間を 挟んで逆向きに配置されたクラスターを形成している(ΔCHS3 -ICHS1 クラスターと命名)。 Ii に由来する変異体の解析から,ΔCHS3 -ICHS1 クラスターの上流域にI 遺伝子の存在することが示唆された(Senda et al. 2002b)。 本論文ではΔCHS3 -ICHS1 クラスター領域の上流域を単離解析し,I 遺伝子候補領域を見出した。 また,Ii に由来する変異体におけるI 遺伝子候補領域の構造変異を調査し、種皮着色突然変異の分子機構を明らかにした。 本論文の要旨は以下の通りである。

1. 黄ダイズ品種トヨホマレ(TH)およびその変異体(THM)の種皮組織における各 CHS 遺伝子メンバーの転写産物量を比較調査したところ, CHS2 / 3 / 4 / 7 / 8 はTHにおいて転写産物量が減少しており特にCHS7 / 8 がPTGSの影響を強く受けていることが明らかとなった。

2. ΔCHS3 -ICHS1 クラスター領域の上流域を解析したところ,GmJ1 プロモーター領域および第1エキソンの一部がΔCHS3 のIR領域と 融合しているキメラ遺伝子が見出された。 なおIR構造の間は78 bpと極めて近接していることが判明し,このキメラ遺伝子をGmIRCHS と命名した。

3. 種皮においてGmIRCHS は転写され5'-ΔCHS3 から3'-ΔCHS3 までリードスルーしていることが判明し, 部分的ではあるがdsRNAを形成する可能性が示唆された。 また,葉においてもGmIRCHS は転写されリードスルーするが,その転写量が明らかに少ないことが示唆された。

4. 独立した2系統のトヨホマレ種皮着色変異体(THMおよびTHM(Sa))についてそれぞれ構造変異領域を同定したところ, 全く異なる変異生成機構によって生じていることが明らかとなった。 このことから,Ii への構造変異パターンは,品種・系統間の遺伝的バックグラウンドによる影響を受けない可能性が示唆された。

5. 低温処理した個体の種皮において,CHS 転写産物量の有意な増加が確認され,低温によるCHS PTGSの作用阻害を示唆するデータが得られた。

6.低温着色抵抗性である十育237号のGmIRCHS 領域において多型が検出され,その原因は, GmIRCHS の5'-ΔCHS3 部分がGmJ1 の第1エキソンおよびイントロン部分に置き換わっているためであることが判明した。