氏 名 むらかみ たかのり
村上 貴宣
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第378号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 Chemical Investigations of Metabolites Produced by Mycoparasitic Fungi and Streptomyces A307
( マイコパラサイト菌及び放線菌A307の生産する代謝物の化学的研究 )
論文の内容の要旨

 本学位論文は二章で構成されている。

1.リンゴ果実上におけるマイコパラサイト現象の化学的研究
 学位申請者は、りんご果実上におけるマイコパラサイト(菌寄生)現象について物質レベルで解明する目的で本研究を展開した。 まず、マイコパラサイトであるLambertella spp.より新規抗生物質lambertllol A, B (1, 2)を既知lambertellin (5)とともに単離、 それらの構造を決定した。 1及び2の絶対立体化学については、化学変換、続く円二色性、分子軌道法を用いた配座解析を行い明らかにした。

これら化合物は化学的に不安定で、互変異性化、分解を容易に引き起こすが、その機構について解明した。 また、安定同位体を用いた取り込み実験により、オクタケチドから二つの炭素が離脱して生成するという、特異な生合成経路を明らかにした。 さらに、isotopomerの分布と取り込み率との関係をシミュレートすることに成功、質量分析装置を用い取り込み率のアッセイに持ちい、 ショ糖4gの入った200mLの培地にわずか20mgの[1-13C]-酢酸ナトリウムを用いて、48%というこれまでに無い高い取り込み率を実現した。 [1,2-13C2]-酢酸ナトリウムを取り込ませたサンプルでは、僅か0.4mgのサンプルを用いてINADEQUATEスペクトルの測定に成功、 従前の報告より100分の1の微量測定を実現した。 本原理を質量分析装置を用いた生合成関連物質の探索に応用し、lambertellol C (3), neolambertellin (4)を単離、 さらに構造決定に成功した。
 これら代謝物の生産性を検討した結果、マイコパラサイトである Lambertella corni-maris の場合、 ホストである Monilinia fructigena 菌糸周辺の高濃度水素イオンを検出して、1-5を生産することを明らかにした。 以上の実験結果を総合して、Lambertella spp.はホストに侵入するとき、抗生物質であるlambertellol類を生産、 ホスト菌にダメージを与えるという機構を提唱した。

2. A307の生産するシクロチアゾマイシンBについて
 さらに申請者は、放線菌A307菌の生産する新規抗生物質cyclothiazomycin B1 (6)及びB2 (7)の構造決定をおこなった。

6の分子量はESIMSにより1527と決定した。 高分解能測定でm / z = 1528.3448を観測したが、候補が多くその分子式を決定するには至らなかった。 ESIMSを重水溶液中で測定することにより、その差から交換性プロトンの数を16であるとこと、1H-NMRスペクトル、 COSY及びHSQCスペクトルより、炭素に直接結合した水素は53であると決定し、分子内の水素数は合わせて69であると帰属した。 酸加水分解物からペプチド由来であると考えた。 加水分解で得られたアミノ酸、及び1の分子量は奇数であることを考慮し、含まれる窒素は21個であると推定した。 13C-スペクトルおよび構成アミノ酸を考慮し、炭素数は61と帰属した。 分子量からこれら構成原子分を差し引き、含まれる酸素数を求め、分子式をC61H69N21S7O13と決定した。 本分子式は、高分解能質量スペクトルの結果を支持する。(計算される[M+H]+の精密質量:1528.3507)。 さらなる詳細な二次元NMRスペクトル、およびMALDI TOF/TOF解析等を行いその構造を図に示した新規2環式チオペプチドであると決定した。 また、各アミノ酸の立体化学をMarfey法により検討、決定した。同様な手法によりcyclothiazomycin B2 (7)の構造も決定した。
6はRNAポリメラーゼを阻害した。 dihydroforate reductaseをコードしたDNAの存在下、バクテリオファージ由来のT75或いはSP6 RNAポリメラーゼ6を作用させて 実験を行ったところ、6を500μM添加することによって、対応するmRNAの生成が完全に阻害された。 6はこれらRNAポリメラーゼの共通の転写機構を阻害していると考えている。 バクテリオファージRNAポリメラーゼは一本鎖ペプチドであり、他のRNAポリメラーゼと比較して単純なため、 転写機構を研究する目的では最適である。 これまで、バクテリオファージRNAポリメラーゼを阻害する物質はあまり知られていないことから、 6は上記研究への分子プローブとして期待される。