氏 名 グエン ティ ミン ホア
NGUYEN THI MINH HOA
本籍(国籍) ベトナム
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第374号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 MARKET RESPONSE OF TRADITIONAL PIG FARMING AREAS IN VIETNAM: A CASE STUDY OF NGHE AN PROVINCE
( ベトナムにおける在来的養豚地域の市場対応:ゲアン省の事例 )
論文の内容の要旨

 本研究は,ベトナムにおける在来的養豚地域の市場対応について,農家レベルでの品種改良, 流通量やチャネルの発展など産地卸売業者の行動変化に着目して分析したものである。 研究対象地域は,ベトナム第2の養豚地域であるゲアン省である。

 ゲアン省の卸売商人は,すでに1980年代からハノイへ豚の輸送を行っている。 当初,卸売業者は小規模養豚農家から直接豚を購入していた。 80年代から90年代にかけて,ゲアン省の豚の品質は高く評価されていた。 経済の自由化に伴い,卸売業者は省外他地域へ豚の輸送を開始した。 探索費の削減やトラックの有効利用などによる効率的な集荷をするために,90年代初め,卸売業者は集荷業者(Assembler:差益商人)を雇用し 新たな流通チャネルを開発した。 卸売業者は,集荷業者に前金を提供することにより,豚の供給を確保した。

 90年代後半になると,豚肉需要も量から質(赤肉率の高い肉)への転換が見られた。 効率的かつ安定的に赤肉率の高い豚を確保するために,卸売業者は赤肉率の高い豚の供給地域において 新たな集荷業者(Commission Agent:手数料商人)の雇用を開始した。 さらに,卸売業者は購入飼料や子豚を提供する連結的市場取引を開始した。

 しかし,ゲアン省からの移出量は2000年以降減少傾向に転ずる。 これは,ゲアン省が在来的な生産方法を克服できなかったために,高品質な豚肉生産への対応が遅れたことによる。 このような状況の中,ゲアンの卸売業者は新たな所得機会を求めて屠場経営を開始したり,他の商品の取引を行うなどの対応が見られた。

 卸売業者の市場対応は,ゲアン省の豚市場にも影響を与えた。 近年では,ゲアン省においても高品質な豚への需要が高まりつつある。 これに対応して,省内の屠畜業者においても手数料商人を雇用して集荷を始める動きがみられるようになった。

 卸売業者は,内外の市場変化に対して敏感に対応し,新たな方法を取り入れるという意味で重要な役割を演じた。 穀物卸売業者と比較しても,豚の卸売業者は,市場志向的経済活動を農村地域に広げる上でも非常に活動的であったと考えられる。

 ゲアン省では,生産段階においても新たな市場の変化に対応すべく,90年代終盤以降,省政府主導による外来種の導入計画が進められるように なってきた。 当初は小規模な導入であり,また導入された未経産雌豚の品質も低く,給餌方法も外来種には不適切であった。 したがって,外来種のもつ本来の特性を十分に生かすことはできなかった。 2001年になると,外来種の導入は,意欲や知識,資金を伴った農家に限られた。 これにより,飼養技術は改善し,経営規模の拡大も進んだ。 外来種は,赤肉率は高いけれども,飼養方法には飼料や技術,環境面で特定の条件が必要である。 そして,飼養方法は繁殖サイクルの各ステージにより異なる。 そこで,ステージごとの技術的側面を経済的に評価できる確率モデルを開発し,繁殖農家における外来種導入の純現在価値を推計した。 データの制約から現在価値の推計は4サイクルを仮定して行った。

 外来種を導入する場合には,購入費に対して補助金が支払われる。 補助金により純現在価値が負になる可能性は大幅に減少することから,補助金は外来種の普及に有効に働いたと考えられる。

 また,外来の繁殖雌豚導入による純現在価値は,技術革新により上昇する。 そこで,産児数,育成率,販売時体重について,農家レベルの技術が研究所レベルの技術に向上した場合の所得を推計することにより, 技術革新の評価を試みた。 推計結果から販売時体重を増加させるような技術導入が所得に与える影響が大きいことが示唆されたが,販売時体重の増加は, 産児数や育成率の向上とセットになった技術とみなさければならない。 しかも,求められる水準は現実の状況をかなり上回るものであるから,技術水準の向上には長期間を要することが予想される。 継続的な補助金の保証がなければ小規模生産者における外来種の普及は困難であろう。 したがって,小規模生産地域の持続的発展のためには,技術水準に配慮した品種改良や導入品種の選択が求められる。