氏 名 ボウ カシン
房  家
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第372号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 飼料イネホールクロップサイレージの発酵品質および反芻家畜における消化性の改善に関する研究
( Studies on Improvement of Fermented Quality of Rice Whole Crop Silage and Its Digestion in Ruminant Animals )
論文の内容の要旨

 現在,日本の食料事情は食用米が過剰であるため,減反政策が余儀なくなされている。 一方では,諸外国からの家畜用飼料の輸入量が多く,食料自給率の低迷が続いており,その向上が求められている。 近年,イネの茎葉と籾を飼料として利用するホールクロップサイレージ(WCRS)の品種,栽培,調製および給与に関する 実用規模での研究が進められている。 このような状況のなか,反芻家畜におけるWCRSの多面的な高度利用を図る基礎的知見を得るために本研究を実施した。

 アミノ酸発酵副産液(AABP)処理および発芽処理した籾を用いて,ウシを供試して消化試験を行った。 その結果,籾を発芽処理すると,無処理に比較して粗タンパク質,可溶無窒素物,粗繊維,中性デタージェント繊維(NDF) および酸性デタージェント繊維(ADF)の消化率が改善され,未消化籾の排泄率が顕著に低下した。 発芽処理とAABP処理籾の可消化養分総量(TDN),可消化粗タンパク質(DCP)および可消化エネルギー(DE)は 無処理籾より高くなる傾向だった。 また,AABP処理および発芽処理籾とも無処理籾に比べて窒素蓄積率の改善効果があった。

 AABPを0%,2.5%,5%および10%添加したWCRSを調製し,ウシを供試して消化試験を行った。 その結果,AABPを添加したWCRSは,無添加のWCRSに比較して乳酸含量が0.3%程度高くなり,5%および10%添加した WCRSは無添加のWCRSより著しく酪酸含量が低下した。 未消化籾排泄率にはAABPの添加による差異がなかったが,AABP添加による繊維性成分の消化率並びにTDN, DCPおよびDE含量の改善効果が認められた。 また,無添加のWCRSを給与したときに比較して,給与前および給与4時間後の第一胃内容液の発酵性状にはAABPの 添加による差異が認められなかった。

 糞への未消化籾の排泄率が低減する基礎知見を得るために,AABPを0%,2.5%,5%および10%添加処理した籾および籾殻の in situ によるウシの第一胃内培養試験を行い,第一胃内での経時的な消失特性を調査した。 AABP処理した籾は,乾物と粗タンパク質の消失率が無添加籾より高かった。特に,3~9時間後の培養初期に大きな改善効果があった。 また,NDFの消失率は無添加籾よりもAABP添加処理した籾が若干高く推移した。 AABPを添加すると,籾の第一胃内消失を改善することが確認され,ウシにおける未消化籾の排泄率を低減させる化学的な作用を 有することが裏付けられた。

 コンバイン型,フレール型,細断型および汎用型専用収穫機を用いて,収穫後WCRSを調製し,ウシを供試して消化試験を実施した。 その結果,フレール型と細断型で収穫・調製するとpHが低く,乳酸含量が高く,コンバイン型WCRSより良好な発酵を示した。 未消化籾排泄率はフレール型,コンバイン型,細断型および汎用型で収穫・調製したWCRSが,それぞれ24.9%,12.2%,17.6% および17.9%であり,フレール型で有意に高くなった。 しかし,消化率とTDN,DCPおよびDE含量には収穫機の違いによる差がなかった。 また,窒素出納および第一胃内容液にも収穫機の違いによる差がなかった。

 脱穀後の生稲ワラを用いて,無添加,畜草1号および尿素添加サイレージを調製し, 乾燥稲ワラを対照飼料としてヒツジを供試した消化試験を行った。 その結果,畜草1号を添加すると稲ワラサイレージの発酵品質と嗜好性は他の処理した稲ワラに比べて良好だった。 また,尿素を添加した稲ワラサイレージは消化率,栄養価および窒素利用率が改善され,第一胃内容液の酢酸濃度が高く, プロピオン酸と酪酸の濃度が低かった。 また,尿素を添加したサイレージは,飼料の嗜好性が著しく低下した。

 畜草1号添加したWCRSの消化性,窒素利用率およびメタン放出量を調査するため,ヒツジを供試した消化試験とメタン放出量測定試験を行った。 畜草1号を添加したWCRSは,消化率の改善効果がなかったが,窒素利用率の改善が認められた。 メタン放出量は,畜草1号添加による低減効果がなかった。

 各種添加物を添加したWCRSの飼料としての特性を多面的に評価するために,尿素,AABPおよび畜草1号(慣行量と慣行量の2倍量)を 添加してWCRSを調製し,発酵品質,乾物,粗タンパク質およびNDFの第一胃内分解特性を調査した。 畜草1号を慣行量の2倍量を添加したWCRSの乳酸含量は2.2%と最も高かった。 また,畜草1号を添加したWCRSは全窒素に対するアンモニア態窒素の割合が無添加サイレージより顕著に低下した。 第一胃内消失率については,AABP添加のWCRSが無添加よりNDF消失率がやや高く推移した。 尿素添加およびAABPを添加したWCRSは他のWCRSに比べて粗タンパク質および乾物の消失率が著しく高く推移した。

以上の結果,WCRSの高度利用を図る場合,各種添加物を添加したときの発酵品質,反芻家畜における消化率と未消化籾排泄の改善効果の 一端を解明出来た。 また,収穫機の違いにより,WCRSの発酵品質と消化性に影響を与えることが判明した。 今後,実用規模でWCRSの高度利用を図る試験研究が必要であると思われる。