近年の地域づくりの分野では「地域らしさ」が以前にも増して重視され,そのために地域の歴史・文化・自然といった
地域資源を見直して,これらを保・護復元したり,あるいはこれらを活用したイベントや環境整備を行うことが主流になりつつある。
一方,博物館は,資料を収集・保管・展示し,また調査研究を行う社会教育施設だが,博物館の収集資料が地域の生活文化や自然に向けられ,
また博物館の調査研究や運営に地域の住民が参加するようになると,そこに地域づくりとの接点が生まれる。
たとえば,「地域博物館」と呼ばれる地域志向型の博物館は,地域の中に課題を発見し,地域住民の主体的な参加を重視して,
住民とともに課題解決に取り組む姿勢を有している点で,地域づくりの担い手の一つとして注目しうる。
そこで本研究では,こうした地域づくりと博物館との関係の深まりを踏まえて,博物館が地域づくりに対して関わりを持つべきなのか,
あるいはその可能性はあるのか,さらに一歩進んで,博物館が地域づくりの担い手になりうるかどうかを明らかにすることとする。
研究方法としては,まず博物館の社会的役割について,社会教育機関としての役割と,地域の発展のための役割を分けて,社会教育法(1949年),
博物館法(1951年)制定後の流れを整理した。
その結果,博物館は,生涯学習活動の中心的な役割が期待されると共に,近年では,生涯学習審議会から,
生涯学習の結果得られた成果を地域づくりのために生かすべきであるという答申がなされるなど,博物館にはますます地域づくりとの
関わりを深めることが求められるようになってきた。
さらに,高度経済成長や開発,それらに関連した環境問題など,さまざまな地域の課題に対して,市民が向かい合う時代になって,
博物館も地域との関わりは,以前にもまして求められる時代になっていることが明らかとなった。
そうした背景のもとで,博物館はどのように地域づくりに関わりうるのか,あるいは関わるべきなのかを,実証的に明らかにすることとした。
研究の方法としては,まず岩手県内の現状を把握することかから始め,全国の先進事例をも含めた調査を行なうこととした。
その際,地域資源との関わりという視点からは都市部にあっても,地域博物館とうたっている施設も参考になりうると考えた。
全国の先進事例としては,多くの文献で紹介されていることから平塚市博物館と野田市郷土博物館の両館を取り上げて地域づくりとの
関わりの実態を分析した。
その結果,地域資源の再発見と価値付け,その成果の地域への還元,そして,そのプロセスへ住民が関わることが地域博物館の使命であるという
明確な概念が示された。
その基準で両館の活動を分析した結果,館の運営理念とそれを具現化する学芸員の意識,さらに行政や市民との連携が必要であり,
そうした条件が整えば地域づくりとの関わりが可能であることが明らかとなった。
一方,地域資源と住民の主体的な参加という視点からは最近エコミュージアムが注目されており,地域に固有の歴史・文化・自然を対象として,
それらを現地において復元・保存しようとする点や,住民参加を要件とする点で,地域づくりと密接な関係を持ちうると考えられる。
このエコミュージアムの活動から,博物館がさらに地域づくりに強く関わりうるのではないかという視点から,
エコミュージアム先進事例として知られる山形県朝日町における活動を分析した。
その結果,朝日町では,住民の活動からスタートし,行政との連携の結果,町の総合計画にエコミュージアムが取り入れられ,
行政と住民との協働でエコミュージアムの活動が行われてきた。
現在は,NPOとして独立し,生涯学習,地域の経済活動,地域づくりへの関わりといった活動が行われており,
それら全ての活動が博物館においても可能であることが明らかとなった。
以上の調査分析から,博物館はその基本的機能(収集・保存,調査・研究,教育・普及)を通じて,地域づくりとの関わりをもつことは可能であり,
社会教育機関としての役割からも,地域活性化のためにも,地域づくりへの関わりを,博物館における,
主たる役割として位置づけるべきであることを本論文では提起した。
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