氏 名 アナイトラ ムフタル
艾乃吐拉 木合塔尓
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第356号
学位授与年月日 平成18年3月31日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 リンゴ果実の貯蔵に対するエチレン作用阻害剤の実用化に関する研究
( Study on practical use of ethylene action inhibitor to the storage of apple fruit )
論文の内容の要旨

 リンゴ果実はエチレンが引き金となって呼吸量が上昇し成熟が開始するクライマクテリック型成熟を示し、 その貯蔵性もエチレン生成量と関係があることが知られている。 現在のリンゴの貯蔵法は低温貯蔵およびCA貯蔵であるが、いずれも呼吸活性の低下が目的であり、 エチレン生成を抑制する有効な技術は実用化していない。

 エチレンなど植物ホルモンは特異的受容タンパクと結合して、初めて生理作用を示すが、1996年にノースカロライナ州立大学の Sislerらが見いだした1-メチルシクロプロペン(1-MCP)はエチレンと受容体との結合を阻害し、エチレンの生理作用を抑制する物質として 注目されるとともに、果実等の鮮度保持効果が認められ、アメリカなどいくつかの国で鮮度保持剤として認可されている。

 日本でも現在、実用化試験が行われ、登録申請中であるが、日本におけるリンゴ果実の収穫は諸外国と比べて完熟期に近く、 果実のエチレン生成が高まった状態で収穫されていることから、本剤の実用化に当たっては日本の流通品種で効果を検討する必要がある。 また、本剤は収穫果実に処理する剤であり、収穫前の樹上着果果実に処理した報告は少なく、その影響を検討することは、 将来樹上処理を実用化する上での基礎資料となる。 そこで、日本の主要品種の収穫果および樹上果に対して1-MCP処理を行い、リンゴ果実の貯蔵性に及ぼす影響を検討した。 得られた主要な成果は以下の通りである。

1.日本で流通している早生、中生および晩生の主要6品種について、収穫適期果実を用いて、1-MCP処理を行った。 その結果、ほとんどの品種において果実のエチレン生成は顕著に抑制されたが、エチレン生成量の高い'つがる'では抑制程度は小さかった。 一方、成熟に伴う諸形質の変化は品種により異なった。 'さんさ'は貯蔵中のエチレン生成抑制効果は高かったが、果肉硬度の保持効果は小さかった。 'ジョナゴールド'はエチレン生成抑制、果肉硬度保持、リンゴ酸含量の低下抑制とも効果が高く、また果皮の油あがりを顕著に抑制し、 供試品種の中では最も効果が高かった。 'ふじ'は元来貯蔵性の高い品種であり、本実験で行った2か月間の貯蔵ではエチレン生成を抑制したものの、 無処理区と処理区の鮮度保持効果は大差なかった。

2. 果実と比較検討した。両果実ともエチレン生成を抑制するとともに果肉硬度、リンゴ酸含量とも長期保持効果が認められたが、 適期収穫果実は5か月間鮮度保持したのに対し、完熟期収穫果実は5か月目には果肉硬度が低下した。 無処理果実はいずれも3か月目以降で低下していた。 本実験の貯蔵温度は2~4℃であり、実際の0℃貯蔵ではさらに長期間完熟果実を貯蔵できる可能性がある。 現在、6か月以上の長期貯蔵は青森県産のCA貯蔵果実のみであり、普通冷蔵で長期貯蔵できる可能性が出来たことは 今後のリンゴ貯蔵方法に大きな可能性を示唆した。

3.樹上果実処理として、着果枝葉を含めた処理、果実のみに対する処理を行った結果、 着果枝葉を含めた処理では'さんさ'や'ジョナゴールド'で異常落葉が生じた。 収穫予定の3週間前に処理した場合、果実の成熟は抑制され、貯蔵性に対する効果も小さかった。 果実のみに対する1週間前処理では成熟への影響はなく、貯蔵性も収穫果処理と同程度に高かった。 また、1-MCP処理した果実に対して貯蔵中に再処理したところ、さらに貯蔵性を保持できる可能性が示唆された。