氏 名 あきた としひろ
秋田 敏宏
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第140号
学位授与年月日 平成19年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 電子情報工学専攻
学位論文題目 産業用多重MRIのシミュレーションに関する研究
論文の内容の要旨

 本論文では,対象物体の内部にある複数の核種に対して核磁気共鳴(NMR)現象を同時に誘起させ, その磁気共鳴信号を計測して,計算機により複数の核種の磁化強度分布を画像センシングする新しい多重MRIの構想概念を提案する. 磁化強度分布を画像再構成する画像センシングの仕組みを明らかにした.

 1946年にPurcellらやBlochらによって発見されたNMR現象を画像化する手法として, 1973年にLauterburによってズーグマトグラフィーが考案された. これにより磁気共鳴イメージング(MRI)は,安全でかつ非破壊的に物体の内部形状を画像化できるため, 臨床診断技術をはじめ,自然科学における様々な分野で発達し利用されている. NMRは,磁場強度と核種固有の回転磁気比によって,特定の周波数で起こる現象である. 従来のMRIでは,NMR信号の発生部位を特定するために傾斜磁場を用いている. 線形に変化する傾斜磁場を静磁場に加えることにより,空間位置を共鳴周波数のスペクトルに対応させている. そのため,同時に複数の核種についてのNMRを画像化することは,共鳴周波数の帯域が重なってしまう可能性があり,困難であった. それゆえ単一の核種についての磁化強度分布画像しか得ることができなかった.

 このような背景から,本論文では,複数の核種における核磁気共鳴の同時計測と磁化強度分布の画像化を行う方法として, 「多重MRI」を提案する. 核種ごとに共鳴周波数が異なることに注目し,傾斜磁場を用いずに複数の核種におけるNMR信号を同時に検出する. その際,透過性能をもつビーム状の電磁波に,ラジオ周波数帯域の電磁波を重畳した透過性ビームを用いる. そのビームが通り抜ける周囲の限定された透過線近傍領域にある核種のみ核磁気共鳴現象が励起される. これによって得られる核磁気共鳴信号をFFTにより周波数スペクトル選別すると,存在する核種について核種別に 透過線近傍領域における磁化強度の積算値が得られる. そこで,X線CTと同様にして透過性RF重畳ビームを多方向から投影し, その投影データにより核種別に磁化強度分布を画像化することが可能となる. また,磁化強度分布の画像再構成を安価にかつ高速に行うために,投影方向数を少数に減らすことが有効である. そのために,磁化が存在する空間に対してウェーブレット標本化モデルを設定し, 特異値分解法と組み合わせることで,磁化分布の画像化を行った.

 本研究では,複数の核種の磁化強度分布を画像化することを目的として,検出することに対する有用性から1H, 13C,15N,31Pの4種類の核種についてのシミュレーションを行った. また,対象物体に含まれる物質を推定することを目的として,化学シフトに着目し, 酢酸内に含まれるメチル基とカルボキシル基について,磁化強度分布の画像化シミュレーションを行った. まず,透過性RF重畳ビームによって励起し,RF波を切ったときに観測される自由減衰(FID)信号を検出する. このFID信号はMHz帯であり信号処理が困難となるため,核種ごとに共鳴周波数にほぼ等しい周波数の信号を掛け合わせHz帯の信号にする. それぞれの核種について同様の処理を行い,フィルタリングにより核種ごとの核磁気共鳴信号が得られる. その信号のFFTにより磁化強度が算出される. この磁化強度の積算値から画像再構成によって磁化強度分布を画像化した. シミュレーションは,均一な静磁場と,磁場強度が中心から徐々に弱くなるような不均一な静磁場を想定して行った. 磁化強度分布の再構成画像を正規化誤差分散で評価したところ,たとえば1H の場合, 均一な静磁場では1.29×10−2,不均一な静磁場では5.18×10−2となり,誤差の小さい良好な再構成画像が得られた. また,1HのNMRスペクトルから得られる化学シフトが良好に識別でき,その磁化強度分布画像も誤差の小さい良好なものが得られた.

 提案する多重MRIの特徴は,(1)傾斜磁場を用いないため,共鳴周波数が核種により異なることにより, 複数の核種の核磁気共鳴信号が同時に検出される,(2)X線CTの画像再構成手法を適用して,少数方向の透過性RF重畳ビーム投影により, 高速に核種の磁化強度分布が画像再構成される,(3)複数の核種の磁化強度分布や,化学シフトに基づいた官能基の磁化強度分布が良好に識別される, (4)多重MRIにより,複数の核種の存在濃度比率がわかることから,内在する物質の推定を行える可能性があることである. 産業分野において,静磁場を乱さないような物体に対して, 新しい非破壊内部検査の可能性があることをシミュレーションによって明らかにした. 多重MRIにより,食品の異常および異物混入,汚染物質を探るための水質調査などのように, 非破壊検査により構造や内容物を検出する装置への応用が期待される.