氏 名 あんどう さだ
安藤  貞
本籍(国籍) 東京都
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第105号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 天然物を用いた第一胃発酵および生産物のマニピュレーションに関する研究
( Research for the manipulation of rumen fermentation and products by means of natural substance )
論文の内容の要旨

 本研究は安全な天然化合物による第一胃発酵のマニピュレーションによって 反芻家畜の栄養改善及び生産物の品質向上と環境保全を図ることを目的としてハーブ及び酵母の効果について in vivo 及び in vitro で検討した。

まず、ハーブの効果について、以下の検討を行った。

1.ホルスタイン種去勢牛を用いたペパーミントの給与試験を実施した。 ペパーミント日量200gの給与によって消化率及びVFA生成に変化は認められなかったが、 アンモニア態窒素濃度の低下及びプロトゾア数の低下が示され、ペパーミント給与による ルーメンマニピュレーションの有効性が示唆された。 また給与試験の結果、ペパーミントの主要な精油成分である L-メントールの多くが尿中に排出されることが明らかになった。 したがって、ペパーミント給与は糞尿の防臭にも有効であることが示唆された。

2.シナモンとバジルを1:1で混合した物(ハーブミックス 1)とローズマリキャラウエイを1:1で 混合した物(ハーブミックス 2)を調製し、4頭のホルスタイン種初産牛を用い、給与試験を実施した。 ハーブミックス給与の2頭とハーブミックス無給与の対照区2頭を設定し、2期の試験を反転法により実施した。 1期においてハーブミックス1の給与個体の牛乳ではシンナムアルデヒドが0.6ppb、ハーブミックス2の 給与個体の牛乳ではd-カルボンが0.5ppb検出された。 しかし、2期では両者とも検知できなかった。 1期においてハーブミックス1を給与された個体の牛乳の官能検査では「牛乳臭が少ない」、「甘い」、 「あじの切れがある」、「こくがある」の評価項目で有意差(p<0.05)が認められ、 総評として「よい」との評価が判定された。 以上の結果から、乳牛にハーブ類を給与した場合、ハーブの精油成分は牛乳中に移行し、 牛乳臭が少なくなるなど風味が変化することが明らかになった。 また牛乳臭の低下はハーブの精油成分のマスキング作用によるものと推察された。

3.レモングラス、ペパーミント、バジル及びハーブ無投与の4処理について4頭の乳牛を用いた4×4の ラテン方格にしたがって給与試験を実施し、牛乳中の抗酸化性を検討した。 各種ハーブ給与によって乳量、乳成分は影響を受けなかった。 ハーブ給与によって牛乳の抗酸化性は向上し、ペパーミント給与時がもっとも高かった。 以上の結果から、ハーブ給与によって牛乳の抗酸化性が高まることが示され、牛乳の付加価値が高まることが示された。

次に、酵母の効果について以下の通りの検討を行った。

1.イタリアンライグラス、イナワラ、ホールクロップトウモロコシの基質に乾燥ビール酵母を添加した in vitro 培養試験を行った。 乾燥ビール酵母添加によって乾物分解率が有意に(p<0.05)高い値を示した。 また乾燥ビール酵母添加による乾物分解率向上の要因解析を目的として同量のタンパク質および核酸添加量に 調製したビール酵母の水抽出物、乾燥ビール酵母を用いて in vitro 培養試験を実施した。 乾物分解率の向上には酵母の水溶性区分の関与が大きいことが明らかになり、 タンパク質および核酸以外の要因の関与が示唆された。

2.イタリアンライグラス、イナワラ及びソルガムの基質に清酒酵母7号、9号及びパン酵母を添加した in vitro 培養試験を実施した。 いずれの酵母添加によっても乾物分解率が有意に(p<0.05)高い値を示した。 分解率の向上割合はパン酵母より清酒酵母の方が大きい値を示した。 しかし、酵母自体の分解率は清酒酵母よりパン酵母の方が高い値を示した。 またペプシン及びアクチナーゼに対する耐性はパン酵母より清酒酵母の方が高く、酵母の細胞壁の構造と 粗飼料の乾物分解作用との間に関連性があることが明らかになった。 さらに清酒酵母7号について好気条件で増殖したものと嫌気条件で増殖したものの効果の違いを明らかにする目的で、 イタリアンライグラス、イナワラ及びソルガムを基質として in vitro 培養試験を行った。 いずれの場合も酵母添加によって乾物分解率が有意に(p<0.05)高い値を示したが、分解率の向上割合は 好気条件で増殖した酵母の方が有意に(p<0.05)大きかった。 しかし、酵母自体の分解率は嫌気培養酵母の方が高かった。 またペプシン及びアクチナーゼに対する耐性は好気培養酵母の方が高く、酵母の細胞壁の構造と粗飼料の 乾物分解作用との間の関連性を確認した。

 以上の結果から、安全な天然物であるハーブ及び酵母は第一胃発酵のマニピュレーションを通して 乳牛等の反芻家畜の栄養及び生産物の品質向上と環境保全に寄与する可能性が推察された。