氏 名 あさだ たけのり
浅田 武典
本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第104号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 リンゴ樹の発生部位別スパー構成に関する研究
( Studies on position distribution of spur in apple trees )
論文の内容の要旨

 リンゴの生産を担う主要な結果枝はスパーである。 スパーは、発生部位により頂生とえき生の2種類に大別することができる。 そのため、発生部位別スパーの全1年枝に占める比率をそれぞれ頂生スパー率、えき生スパー率とすると、 スパー率がある段階に達したリンゴ樹では、高えき生スパー率・低頂生スパー率の太枝から 低えき生スパー率・高頂生スパー率の太枝まで幅広くさまざまな枝が存在することになる。 そこで、発生部位別スパー率の異なる太枝が、栄養と生殖の両生長においてどのような違いを示すかを明らかにし、 両生長のメカニズムに関する情報を得ようとした。 また、種類別スパーの形成要因について検討し、その成果に基づいて種類別スパー率の調整方法を確立しようとした。

 栄養生長との関係では、頂生スパー率が高くなると栄養生長が弱くなり、 えき生スパー率が増加すると逆に栄養生長が強くなる関係が認められた。 頂生スパーが多いことは主に短い枝の頂芽に形成されるので、短い生長を年々繰り返し、 次第に衰弱することを意味する。 一方、えき生スパーが多いことは、主に長い2年枝のえき芽から形成されるので、 長い新しょうが距離的に近い位置に存在し、生長の盛んな部位が多いことを意味する。 以上の形態形成上の違いが、両スパー率による栄養生長の相反する性質を特徴付けている。

 生殖生長との関係では、頂生スパー率が増加するにつれ、花芽形成率が低下する関係が認められた。 また、果実生産性との関係については、頂生スパー率がある程度高い方が効率よく果実生産できることを明らかにした。 果実生産性、すなわち葉面積当たり果数は、1年枝当たり新しょう発生数(頂芽増加率)あるいは同葉面積が 少ない方が大きくなるが、頂生スパー率の増加とともにそれらが減少することが果実生産性向上の理由と考えられた。

 果実品質との関係では、頂生スパー率が高くなり、4年以上スパー形成を繰り返した頂生スパーが 増加すると果実の大きさや可溶性固形物含量などの果実品質が低下するが、Ca含量は増加することが認められた。

 発生部位別スパー率と栄養・生殖生長の関係は、無せん定樹とせん定樹について得られた結果であり、 リンゴ樹において基本的に備わった法則性であることを明らかにした。 頂生スパーとえき生スパーは、どちらか一方が良品生産のために貢献するのでなく、 両スパー率ともある幅をもって維持される必要がある。 その望ましい両スパー率の範囲は、品種、樹齢、土地条件および品質基準などによって違いがあるが、今後の課題としたい。

 太枝を単位としてみると、頂生スパー率とえき生スパー率は、樹内変異が大きいことから、せん定により 調整可能な性質と考えられる。 そこで、無せん定樹とせん定樹の枝構成の違いを分析し、各スパーの形成要因を明らかにすることにより、 せん定による各スパー率調整法を明らかにしようとした。 せん定樹と無せん定樹の比較より、せん定樹はえき生スパー率を高くするよう調整していることが示唆された。 一般的には、えき生スパー形成を促すことにより、若い枝で結果部位を構成するせん定が 行われていると推察される。 えき生スパーの形成を促すには、母枝の性質の中で枝長が最も重要であり、ある程度長い母枝を形成する必要がある。 しかし、長い母枝を増加させると、樹勢が強くなり、全スパー率そのものを低下させる可能性がある。 そこで、枝モデルを使用して、せん定方法と全、頂生およびえき生の各スパー率との相互関係を検討した結果、 えき生スパー率を高めるには、頂生スパーから頂生スパーを形成する割合を低下させ、 頂生スパーから長枝をある比率で発達させるせん定が有効であることが判明した。 一方、若い樹などにおいて頂生スパーを増加させるには、主軸となる枝でなく、 側方に発達するえき生長枝を減らす方法が有効であった。 これらの研究成果は、いろいろなせん定技術の特徴を発生部位別スパー率から解析することを可能にし、 初心者用せん定マニュアル作成に活用できると考えられる。