氏 名 むねおか としみ
宗岡 寿美
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第103号
学位授与年月日 平成17年9月30日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 寒冷少雪地域における冬期の気象・地盤環境が切土法面に及ぼす影響と植生を含めた斜面保全対策
( Influence of Winter Climate and Ground Environment on Cut Slopes and Measures of Slope Conservation with Vegetation in the Cold Region with Less Snow )
論文の内容の要旨

 寒冷少雪地域の十勝地方では、冬期間の土壌凍結・融解に伴いさまざまな被害が 現在も発生している。このうち、切土法面をとりまく冬期の諸問題には、切土法面自体の侵食や崩壊はもとより、 下端に位置する排水構造物の凍上被害などとも関係する。 このため、寒冷少雪地域で切土法面を保全していくには、既往の崩壊防止対策とは異なる視点からの検討が必要である。

 はじめに、農道施工に伴う付帯構造物のうち農道側溝を対象として、切土法面下端に位置する 農道側溝の凍上被害と側溝側方の切土法面との関係についていくつかの調査事例を解析することにより、 施工環境条件としての切土法面が農道側溝の凍上被害に及ぼす影響について検証した。 積雪深が20cmに達するまでの積算寒度が大きい冬期ほど周辺土壌の凍結深さは大きくなり、 切土法面下端に位置する農道側溝の凍上被害にも影響を及ぼしていた。 施工環境条件として農道側溝の側方に位置する切土法面の存在は農道側溝を維持・管理していく上で 相互補完的な関係にあることが示唆された。

 地点・勾配・法高さなどがほぼ同一で方位の異なる4方位切土法面において冬期の気象環境を 5冬期間にわたり詳細に調査した。 冬期の全天日射量は大きく異なり、このことが切土法面の気象・地盤環境に大きく影響を及ぼしていることが明らかとなった。 対面した2方位の切土法面で考えると、南向き・北向き法面における冬期の気象・地盤環境の差異は 全天日射量に起因し、北向き法面では積雪深が大きく積雪期間が長いにもかかわらず凍結深さが大きくなっていた。 一方、全天日射量が同程度である東向き・西向き法面では、風速が大きく頻度の高いWNW(西北西)の風向が 両法面における積雪深の差を顕著にし、東向き法面には雪庇(せっぴ)を形成する一方で西向き法面の 土壌凍結を促進していることが判明した。 積雪下における凍結深さの予測式を4方位切土法面に適用すると、切土法面方位の違いにより凍結係数(α値)は 0.1~4.9とバラツキが大きく、相対的にα値が大きい北向き・西向き法面では土の凍結・凍上被害を もたらす可能性が高くなることが明らかとなった。

 寒冷地において、融雪期・凍結融解時の融雪水・雨水による切土法面の侵食・表層崩壊を回避・抑制していくには、 草本植生を用いて斜面全体を高密度で被覆することが有効な手段となる。 とくに寒冷地では、植生を播種してから冬期を迎えるまでの期間に植生の草丈・根系が十分に生育している必要があり、 切土法面を含めた斜面全般の保全対策には植生工における施工限界期の検討が重要な要素となる。 そこで、寒冷地で生育する草本植生(トールフェスク)の根系を含む土層が切土法面表層の保全に果たす 力学的役割を定量評価するため、草本植生根系を含む土供試体のせん断特性と生育期間に関する基礎的実験を試行した。

 根系を含まない土供試体の一面せん断試験の結果、粘着力cおよびせん断抵抗角φに大差はみられなかった。 また、草本植生の生育期間に比例して根系を含む土供試体の強度定数は変化し、緑化用客土の土供試体では 粘着力cが増加する一方、ゼオライトを混合した土供試体ではせん断抵抗角φが増加することが明らかにされた。 このとき、ゼオライトを20%混合した土供試体はせん断抵抗角φが最大値を示すとともに根長密度・乾物重が 最大になるなど、ゼオライトが肥料成分を保持することに起因して草本植生の根系の形状に影響を及ぼしていると考えられる。 以上より、ここで得られた知見をもとに、寒冷少雪地域における植生を含めた斜面保全対策について考える。

 切土法面の設計・施工には一般に土質と法高さに対応した法面勾配が規定されてきた。 しかし、本研究の成果をもとに考えると、今後は寒冷少雪地域において切土法面方位の違いを考慮した凍上抑制対策を 早急に確立し、現行の設計基準・指針等に適切な示唆を与えていく必要がある。

 これまでの間、切土法面の設計・施工には一般に土質と法高さに対応した法面勾配が規定されてきた。 しかし、本研究の成果をもとに考えると、今後は寒冷少雪地域において切土法面方位の違いを考慮した 凍上抑制対策を早急に確立し、現行の設計基準・指針等に適切な示唆を与えていく必要がある。

 また、寒冷地におけるこれまでの植生工の施工限界期は、草丈がある程度生育するまでの気温と生育日数との 関係から検討されてきた。 今回の実験のように、植生の生育期間を指標として草本植生根系を含む土層がもたらすせん断強度を具体的に 定量評価することにより、植生工の施工限界期を再検討していくことが今後の斜面保全対策として緑化工技術に 求められる。 このように、本研究では寒冷少雪地域における冬期の環境に耐え得るように切土法面を保全する上できわめて 有用な知見を得るとともに、植生の根系を活用した斜面保全対策を提示するなど、目下の課題に対して的確な 示唆を与えることができた。