氏 名 ポンパタナシリ スクタイ
PONGPATTANASIRI Sukthai
本籍(国籍) タイ
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第102号
学位授与年月日 平成17年9月30日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻 連合農学研究科
学位論文題目 Influence of a Percolation Pattern on the Removal of Soluble Elements in Downward Water and Rice Plant under Inudation during the Cultivation with Models of Cadmium Polluted Paddy Field
( 常時湛水条件下のカドミウム汚染水田模型の浸透型が物質動態及び水稲に及ぼす影響 )
論文の内容の要旨

 本研究では、カドミウム汚染土を用いた成層水田の模型を作製し、 浸透型が降下浸透水の物質動態と水稲に及ぼす影響を調査した。 浸透型は、開放浸透と閉鎖浸透の2種類である。 実験に用いた模型は、作土層及びすき床層は汚染土(3.93mg/kg、乾土)で、心土層は非汚染の礫を用いて作製した。 模型は、全層閉鎖浸透のものとすき床層と心土層の一部のみが開放浸透層で他は閉鎖浸透となる2種類とした。 これまでの実験は、ポットで行われていたが、円筒を用いることで根の伸長環境を現実の水田に近い状態で再現した。 このような環境では、現実の水田のように下層を酸化状態にでき、かつ下層が酸化状態の場合のカドミウム吸収の 有無を検討できる。 この実験は、施肥を行い、常時湛水栽培という条件下とした。

①開放浸透層をもつ模型では、閉鎖浸透層に比べ開放浸透層(すき床、心土上部)が高いDO値とEh値となる 結果がえられた。 開放浸透層におけるこれらの値の上昇は、通気口からの拡散を意味している。 全層閉鎖浸透をもつ模型では、全層低いDO値でかつEh値も低い値となった。 このことより、開放浸透の場合は、すき床及び心土上部は酸化層で、同層が閉鎖の場合は還元層となることが判明した。

②降下浸透水の鉄濃度、EC値、カルシウム濃度およびマグネシウム濃度は、開放浸透層で 閉鎖浸透層に比べ低くなった。 カルシウム濃度およびマグネシウム濃度の増減現象は、鉄濃度の大小と対応が認められた。 アンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、リン酸態リン濃度を測定した結果、実験初期の降下浸透水中で 硝酸態濃度が上昇する傾向が確認された。 しかし、実験終了時には差は認められなくなった。

③模型中の作土、すき床、心土の微生物数(細菌および糸状菌)を調査した結果、 下層ほど個体数が減少する結果となった。 しかし浸透型との関係は認められなかった。 生息数個体は、作土及びすき床層に比べ、心土層で劇的に減少した。

④稲の生育は、葉齢では差は認められなかったが、茎数、草丈および穂数では開放浸透模型の方が、 全層閉鎖模型に比べ低い値となった。 根は、心土層上部(50cm 深)まで伸長することが確認されたが、浸透型の相違による根量の相違は認められなかった。 しかし汚染層まで根が伸長することが確認された。

 第13葉の黄変した長さの全長に対する割合は、収穫期で、開放浸透模型が約30%であったが、 全層閉鎖浸透模型では84%となった。 この相違は、登熟期の光合成能力に差異を生じることを示している。

 全籾数、登熟籾数、籾重及び総藁重は、全層閉鎖浸透模型に比べ、開放浸透層をもつ模型の方が少なくなった。 この結果は、生育収量への負の影響が、全層閉鎖浸透層の模型に比べ開放浸透層をもつ模型で大きくなることを示唆している。

 玄米中のカドミウム濃度は、閉鎖浸透層をもつ模型で0.018mg/kg、開放浸透層をもつ模型で0.167mg/kg と 9倍の差が生じた。 この結果は、すき床層が酸化か還元かという条件の相違による判断される。

以上のように、浸透型の相違は、土層の酸化還元のみならず、下層からの物質吸収にも影響を及ぼすことが 明らかとなった。 また、汚染された下層土が酸化状態となる場合は、カドミウムの吸収による生育収量への影響の可能性が示唆された。