氏 名 | たけこし ひでお 竹腰 英夫 |
本籍(国籍) | 北海道 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第354号 |
学位授与年月日 | 平成18年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物環境科学専攻 | ||
学位論文題目 | Biological functions of Chlorella pyrenoidosa with reference to chemoprevention and excretion of dioxins ( 化学的発がん予防およびダイオキシン類排泄に関する Chlorella pyrenoidosa 生物学的機能に関する研究 ) |
||
論文の内容の要旨 | |||
本研究において、健康食品として広く利用されている Chlorella pyrenoidosa (C. pyrenoidosa) の化学的発がん予防作用およびダイオキシン類の体外排泄促進作用について調べた。 がんは、生活習慣病であるともいわれ、疫学的調査の結果は、がんの発症には生活習慣、 特に食事要因が大きく影響していることを示唆している。 昨今、がん医療の中でも機能性食品を摂取することによる化学的発がん予防に関する研究が注目されている。 本研究では、C.pyrenoidosa を日常的に摂取することによる、肝臓の前がん病変である 胎盤型グルタチオン S-トランスフェラーゼ陽性細胞巣(GST-P 陽性細胞巣)の発達に対する抑制効果を F344 雄性ラットを用いて中期肝発がん性試験法により検討した。 基礎飼料に10%のC. pyrenoidosa を混合した飼料を摂取させたラットにおいては、 基礎飼料を摂取させたラットと比較して、Diethylnitrosamine(DEN)でイニシエートされ、 2-amino-3,8-dimethylimidazo- [4,5-f]quinoxaline(MeIQx)でプロモートされるラット肝臓中の GST-P 陽性細胞巣の個数と面積が有意に減少した(p<0.01)。 直径0.2mm以上のGST-P陽性細胞巣の個数および面積における抑制率は各々67.6%、および74.2%であった。 更に、MeIQx のみによって誘発される直径0.2mm未満のGST-P陽性細胞巣の個数における抑制率は、 52.0%であった(p<0.01)。 本研究の結果は、C. pyrenoidosa がラットにおける肝発がんに対する予防効果を有することを示唆している。 C. pyrenoidosa は、ヒトの肝臓がんやMeIQxのような加熱などにより生成する食品中に含まれる可能性のある 発がん物質であるヘテロサイクリックアミンによって誘発される発がんに対して予防効果を有する食品として 有望であると考えられる。 ダイオキシン類は、ごく微量で生体に催奇形性、発がんの促進、免疫抑制、生殖機能の低下などの 影響を及ぼす環境汚染物質である。 本研究では、1,2,3,4,7,8-hexachlorodibenzo-p-dioxin(H6CDD)を投与した C57BL/6N 雄性マウスに おけるH6CDDの糞中排泄と肝臓蓄積に対する C.pyrenoidosa の影響について調べた。 マウスには、基礎飼料、10% C. pyrenoidosa 混合飼料、および10%ホウレンソウ (Spinach oleracea L.) 混合飼料を摂取させる1週間の予備飼育期間の後、コーン油に溶解した2.2μgの H6CDDを経口投与し、その後5週間、各々、予備飼育期間と同様の実験飼料を摂取させた。 10%C.pyrenoidosa 飼料群におけるH6CDD投与後1週間の糞中排泄量は、 基礎飼料群の約9.2倍に有意に増加した(p<0.05)。 そして、10% C. pyrenoidosa 飼料群のH6CDD投与後5週目1週間における糞中排泄量は、 基礎飼料群の約3.1倍に有意に増加した(p<0.05)。 更に、H6CDD投与5週間後において、10% C. pyrenoidosa 飼料群のH6CDD 肝臓蓄積量は、基礎飼料群の27.9%に、10%ホウレンソウ飼料群の34.8%に有意に低下した(p<0.05)。 本研究の結果は、C. pyrenoidosa が、食物とともに摂取されるダイオキシン類の腸管からの吸収を抑制し、 すでに体内組織中に蓄積しているダイオキシン類に対しても腸肝循環における腸管からの 再吸収を抑制することにより、体内蓄積量を低減させるのに有効であることを示唆している。 動物実験により C. pyrenoidosa のダイオキシン類排泄促進効果が確認されたことから、 妊産婦における介入試験を実施した。 ダイオキシン類は、母体から胎盤を通過して胎児へ、また母乳を介して乳児へと移行し、 出生児の成長過程において様々な健康障害を引き起こしている可能性がある。 出生児のダイオキシン類による健康リスクを評価するためには、妊婦とその子どもたちの ダイオキシン類曝露の実態を把握することが不可欠である。 同時に、ダイオキシン類の母児間移行を低減させるための対策の検討も必要である。 本研究では、日本に在住する44人の妊婦からサンプリングした母体末梢血、母体皮下脂肪、母乳、 臍帯血、および胎盤について、ダイオキシン類(PCDDs, PCDFs, Co-PCBs)28異性体の測定を行った。 加えて、妊娠期間中、44人のうち23人の妊婦に C. pyrenoidosa 錠剤を摂取させ、 ダイオキシン類の母児間移行低減の可能性を検討した。 母体末梢血の毒性等量(TEQ)と母体皮下脂肪のTEQとの間(r=0.913、p<0.0001)、 母体末梢血と母乳との間(r=0.695、p=0.0007)、および母体末梢血と臍帯血との間(r=0.759、p<0.0001)には、 各々、有意な相関関係が認められた。 胎児および乳幼児へのダイオキシン類の移行量は、その母親の体内ダイオキシン類蓄積量を反映していた。 本研究から、母体末梢血のダイオキシン類レベルから母乳および臍帯血のダイオキシン類レベルを 予測しうる直線回帰式が導かれた。 臍帯血のTEQは、母体末梢血の約26%に低下していた(p<0.0001)。 ダイオキシン類の胎盤透過性は異性体によって異なっており、胎盤は比較的毒性の強いダイオキシン類異性体を 良く蓄積し、胎児への移行を制限していることが示唆された。 C. pyrenoidosa 錠剤投与群における母乳のTEQは、対照群のそれに比べ、約30%低下していた(p=0.0113)。 本研究の結果から、母親が食生活においてサプリメントとして C.pyrenoidosa を摂取することにより、 母乳を介したダイオキシン類の母児間移行を低減しうる可能性が示唆された。 |