氏 名 あさくら せんきち
浅倉 千吉
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第353号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 自然石を配置した水路の抵抗特性
( Characteristics of Channel Surface Resistance Arranged with Natural Stones )
論文の内容の要旨

 近年、自然保護や環境への配慮の観点から、農業用用排水路などの 改修整備工法の一つとして、水路に自然石を配置した設計施工が求められるようになった。 自然石を配置した水路設計においては、その抵抗特性が明らかでなければならないが複雑な形状と配置の 問題があり一般的な解法が得られないため、立方体などの定形粗度の研究事例や粗度係数の測定事例を 準用したり、個別の粗度ごとに逐一実験を行って抵抗特性を把握しているのが現状である。

 本研究は、自然石などの粗度要素の形状と配置が抵抗特性にどのように影響するかを実験的に調べ、 その解析と定式化を試みたものである。

 自然石配置水路は、粗度要素を群体配置したものであるが群体状態で粗度要素の形状問題を 扱うことが困難なため、抵抗特性が水路底に作用するせん断力、即ち粗度要素に作用する抗力の 影響を受けることに着目し、研究は以下によった。

 第一段階として、単体で設置した定形および不定形の各種粗度要素に作用する抗力を水理実験により測定し、 粗度形状などの影響因子の定量的評価を行い、抗力を分割して不定形粗度の抗力係数計算式を提案した。

 単体粗度の実験的研究により明らかとなった主な事項は以下のとおりである。

 ①粗度要素上流下部に、おおよそ45度の傾きを持つよどみ領域が形成され抗力に影響している。

 ②レイノルズ数(Re)と抗力係数(CD)の関係については、Re=5000~20000の範囲では半球の場合 Reの増加と共にCDがやや低下するが、立方体では相対水深2以上ではほぼ一定とみなすことができる。

 ③相対水深(h*)と抗力係数(CD)の関係については、h*<2 でCDの急増が見られ、 h*の減少に伴うCD値の増加は、粗度上下流に生じる水深差に起因することが分かった。 なお、通常用いられる抗力の定義式はh*>2 で用いるべきである。

 ④定形粗度を用いた実験によると、正面形状の影響については、正面形状(射影)のみの変化に対して CDは0.5~2.8まで大きく変化する。 この変化は、(S・R/AD)0.5とCDとの相関関係が認められエッジ正面形状の効果と考えられた。

 ⑤上流形状については、上流傾斜と傾斜形状を変化させた実験を行い、よどみ領域を考慮した 平均傾斜角θf による特性値(1-cosθf)とCDとの良好な相関関係が得られた。

 ⑥エッジ角度を用いたsinθe とCDの関係では明確な相関が見られエッジ断面形の効果と考えられた。

 ⑦下流形状は、CD値に殆ど影響しないが、剥離水脈の再付着に起因すると思われるCLの低下があった。

 ⑧不定形粗度(自然石)についても、⑤と同様の結果がえられ、定形粗度で得られた形状効果の特性は 不定形粗度の特性把握に応用可能と考えられた。

 ⑨粗度表面の粗滑と流水力については、平滑面と砂付面のCD値を比較すると摩擦の増加による CD値の増加は伺えるが明確ではない。

 ⑩背圧を直接測定した結果、下流側抗力が全抗力の40~50%を占め、 抗力の上下流分割表示が抗力を解明する上で有益な手法であることを示唆するものである。

 第二段階として、水路床面に作用するせん断力と床面のせん断抵抗の関係から流速係数を求める理論式を提示し、 群体配置の水理実験をおこない検証した。 従来の流速分布の対数則に依拠した解析方法では、相対水深と粗度の配置密度による抵抗の評価に留まったが、 実験により大型粗度群の場合、粗度形状と配置パターンが流速係数に与える影響は無視できないことを明らかにした。 更に、床面のせん断抵抗による流速係数の理論式を提示したことにより、抵抗則の物理機構をその要因別に整理できた。

 群体粗度の実験的研究により明らかとなった主な事項は以下のとおりである。

 ①床面のせん断抵抗の関係から流速係数(Ψ)は、抗力係数(Cd)、有効射影面積率(Ad/AD)、 粗度密度(AD/Ac)、代表流速比(Vd/V)、摩擦抵抗面積比(Af/Ac)、床面摩擦係数(fs)の6つのパラメータにより 求めることができる。 本論では、これらによるΨの理論式を示した。

 ②抗力に関する遮蔽効果を物理的に明らかにする観点から、遮蔽域を「遮蔽による運動量欠損厚に 相当する領域」と定義した。

 ③単体粗度と群体粗度の遮蔽率分布に基本的に差が無いので、単体粗度の遮蔽率分布と 水路全体の平均的遮蔽高さの計算モデルから、平均遮蔽高さ(za)を求めた。

 ④群体粗度に作用する抗力は、遮蔽により粗度要素がzaの上部に露出した状態を想定すると、 Cd,Ad,Vdの3つのパラメータで説明できるとした。

 ⑤Cdは、露出した状態の粗度形状における抗力係数と考えることができるので、 その状態の形状から単体粗度の抗力係数式を用いて計算できる。

 ⑥Adは、接近流の運動量が有効に作用する露出した部分の射影面積で、正面形状関数と yd/K により求まる。

 ⑦Vdは、群体粗度頂部の流速であるが、流速分布の測定結果によると粗度頂部付近では 乱流粗面の流速分布が適合しないのでVdの実験式を求めた。

 ⑧床面の摩擦抵抗面積(Af)は、粗度要素や渦流領域を除いた面積とした。

 ⑨定形粗度を用いた実験結果とΨの理論式による計算結果を比較すると、 計算値全体として小さい値を示し、特に相対水深増加に対し顕著な傾向を示した。 このため、Ψの理論式の修正式を示した。

 ⑩理論式の修正式と定形粗度の実験結果との比較においては、良好な一致が認められたが、 一致しないケースもありzaの推定が今後の課題である。

 ⑪理論式の修正式と自然石の実験結果との比較においては、相対水深が5程度では、 おおむね両者は一致するが一致度はなお不満が残る。 相対水深が2.5程度では更に差が開くが実験データの問題が主因と思われた。

 ⑫理論式の修正式と既往研究との比較では、流速係数について足立や松下の実験式との 良好な一致が認められた。

 ⑬自然石などのランダム配置では、流速係数の計算に使用する諸数値が問題となるので、 そのサンプリング方法と諸数値の決定方法を検討した。 この中で、zaが粗度間隔Sxの変化に影響されることを明らかにし、Sxの変動係数を用いたzaの修正を行った。

なお、本研究が、床面のせん断抵抗による物理機構解明の端緒となることを期待するものである。