氏 名 ドゥ ハチン
杜  河清
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第352号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 蛇行河川河道平面計画のための水理模型実験手法開発に関する研究
( Study of the Development of Hydraulic Experimental Maneuver for Plane Planning of Meander Channels )
論文の内容の要旨

 本論文は、蛇行水路における河床形状と表面流況との関係に関する実験的研究と砂礫堆相似による小型模型水路実験との2部構成になっている。

 第一部 蛇行水路における河床形状と表面流況との関係に関する実験的研究

 研究の目的:洪水による河岸侵食や護岸の破壊などの河川災害は、主に洪水水衝部や河岸深掘れ箇所において 発生しており、河床形状を把握することは、災害防止上、きわめて重要である。

 研究の進め方:蛇行水路における砂礫堆の移動と安定の問題は、私たちの研究室で長く取り組んできた 問題であったが、砂礫堆の位置・形状と水流蛇行の関係についての具体的な解析データがうまくとれていなかった。 しかし、最近、安価で性能のいい流体計測のソフトウェアーが普及してきたので、それによって、 蛇行水流の表面流速・流向のデータ解析を進めた。 その結果、砂礫堆と水流蛇行との対応関係をより詳細に把握することができた。 また、これまでの研究結果との比較検討から、この流体解析ソフトの信頼性もチェックすることができた。

 実験の解析結果:実験は水路の蛇行形状の異なる6つのCASEについて流量を変化させて行い、 砂床縦横断面測量によって詳細な砂床形状の変化を計測するとともに、表面流向・流速を測定し、 各蛇行水路における砂床形状と表面流向・流速によって:
①蛇行水路における砂洲形状の発達と安定化、
②蛇行角が異なる水路での深掘れ形状のちがい、
③流量変化に伴う蛇行水路の砂床と流況の変化、
④同一蛇行角の場合の蛇行波長のちがいの影響、
以上の4つの方面を比較検討した。

 研究の結論:砂礫堆の移動を抑えた蛇行水路において、移動を止めることのできる限界蛇行に近い 角度をもつ蛇行水路の場合に、河岸沿いの深掘れと表面流向、流速分布の測定によって、 これは治水上最適な河道であることを明らかにした。

 第二部 砂礫堆相似による河川小型模型実験

 その1、砂礫堆相似による新潟県羽越荒川の小縮尺模型水路実験

 その2、砂礫堆相似による徳島県那賀川の小縮尺模型水路実験

 研究の目的:蛇行波長と蛇行角を揃えた蛇行河道については、この研究結果をもとに、 洪水時水衝部における水流がある程度分散し、河岸沿いの深掘れが抑えられる治水上有利な 蛇行河道形状を提案することができた。 しかし、実際の河道は、蛇行波長や蛇行角がまちまちで、我々の提案をそのまま平面計画河道として 採用することは難しい。 実河川でよりよい河道平面計画を立案するためには、砂礫堆形成と水流蛇行を再現できる、 小規模水理実験手法の開発が必要であることが明らかになった。

 荒川の小縮尺模型水路実験:これまでの実験成功例を参考にして、適切な実験水理諸量の 組み合わせを探していった。 水路床粒子として、3種類を用意して実験を行ったが、いずれの場合でもほぼ現地の砂礫堆形状パターンを 再現することができた。 そのさい、木下が大井川の模型実験において採用した2パラメータ(BI/h, u*/u*c)を現地と 実験で揃えるように実験諸量の組み合わせを求めた後、実験水路上に出現する砂礫堆を見比べながら、 勾配や流量を調整して、より適切な水理諸量の組み合わせを見出していけばよいことが分かった。

 那賀川の小縮尺模型水路実験:徳島県那賀川の平野部区間を対象に、幾何縮尺 1/1000 の 小縮尺模型実験を試み、砂礫堆の形成と挙動をほぼ再現させることができた。 砂礫堆形成を重視した実験であるため、模型水路に使用する砂床粒子に制約があり、 現地河川より河床勾配を大きくした歪み模型を採用した。 そして、那賀川の模型実験における、Flow-vec という流体計測ソフトによって表面流向・ 流速分布(PTV と PIV)を測定し、阿南工業取水塔付近の洪水流の流下状況を明らかにして、 取水塔の安全対策を参考とする。

 相似側の検討:河道内に砂礫堆の形成が明瞭な新潟県荒川と徳島県那賀川の2河川をとりあげ、水理模型実験を行った。 その際、木下提案の2パラメータ(BI/h, u*/u*c) と三輪提案2パラメータ((B/h)*(v2/gh), )を検討した。 勾配や流量を調整して、いずれの場合でもほぼ現地の砂礫堆形状パターンを再現することができた。

 研究の結論と提案:模型実験の相似則としては、木下が採用した2パラメータ、現地と模型で ほぼ等しくするということを基本におく。 基本水理量を中心に、勾配や流量を変化させた条件で通水し、砂礫堆の形成と挙動を観察・測定し、 現地の状況をもっとよく再現できる場合を明らかにする。

 今後、他河川の小縮尺模型実験を重ねて、砂礫堆相似を重視した模型実験の相似則について研究を進めていきたい。