氏 名 ちば かつみ
千葉 克己
本籍(国籍) 宮城県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第351号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 水田の汎用化における低コストな暗渠排水システムに関する実証的研究
( Case studies on the low-cost underdrain system in paddy fields for multiple use )
論文の内容の要旨

 本研究では、水田の汎用化のための重要な地下排水促進技術である暗渠排水の 低コスト化を目的に、水田輪作農業における営農排水技術の現状、わが国における暗渠排水設計の変遷、 既往の研究等を検討し、常時地下水位が低く地耐力が安定している水田の汎用化を対象とした 低密度暗渠排水システムを考案した。 本システムの特徴は、営農補助暗渠の組合せを前提とし、これまで吸水機能が主であった本暗渠に 集排水機能を付加させ、本暗渠の間隔を 40m以上としたことにある。 また、宮城県古川市内における排水不良水田(長辺125m、短辺80mの1ha区画、灰色低地土)において 本システムを採用した試験区(1本区、2本区)を設計し、試験施工を行った。 そして地下排水促進機能を評価するために、現行の暗渠排水システム(8本)試験区(現行区)と 暗渠排水未整備の試験区(未整備区)を対照区として設定し、大豆の栽培実証実験、土壌水と地下水位の動態、 暗渠排水量等のフィールド調査を2ヵ年にわたり実施した。 なお、本システムについては営農補助暗渠の間隔を2mおよび4mとした場合をそれぞれ検討した。

1.低密度暗渠排水システムによる低コスト効果について
 本システムの直接工事費は、1本タイプで約120千円、2本タイプで約240千円であり、 現行暗渠の約630千円と比べてかなり低コストである。 したがって、低密度暗渠排水システムは土地改良事業における暗渠排水整備の大幅な低コスト化が期待できる。

2.低密度暗渠排水システムの地下排水促進機能について
(1)本システムで重要な役割を担う営農補助暗渠は4m間隔より、2m間隔で吸水機能が大きいことが認められた。 また、2m間隔で営農補助暗渠を施工した場合、1本区は2本区や現行区と比べると排水性はやや劣ったものの、 本暗渠から40m離れた位置でも地下排水機能が低いとは認められず、区画全体の地下排水機能がほぼ均一に 強化されていたと考えられた。 したがって、本試験地のような土壌条件、地理的条件の水田では、営農補助暗渠を2m程度の間隔で 施工する本システムの採用により、大豆の湿害を回避できるほど地下排水機能が向上すると考えられた。
(2)本システムは2m間隔で営農補助暗渠を施工した場合に大きな排水効果を発揮することが確認されたが、 1本区は本暗渠の通水能力不足によって地下水と過剰な土壌水の排除が遅れたため、現行区と 2本区より排水性が劣ったと考えられた。 2本区は大豆の生育が現行区と同等であるとともに、1本区より暗渠排水量が多く、降雨による地下水位の 上昇も抑制されていたことが認められた。 したがって、本暗渠の間隔を40m以下とするとともに、本暗渠に十分な通水能力を持たせれば、 本システムによる水田の汎用化は可能と考えられた。
(3)地下水位が最も低い試験区は現行区であった。 このため、低密度暗渠は現行暗渠と比べ地下水を排除する機能が低いと考えられた。 これは営農補助暗渠の施工深さが本暗渠より浅く、深い位置の地下水を排除できないためと考えられた。 よって、本暗渠排水システムの主な機能は、土壌の過剰水を排除することと地下水位の上昇を 抑制することであると考えられた。 また、本試験地のような地下水位が低い水田では有効であるが、地下水位の高い水田においては 十分な排水効果が得られない可能性がある。
(4)地下排水機能は、現行区で最も高く、次いで2本区、1本区であることが認められ、 本暗渠の間隔が小さいほどその機能は高くなると考えられた。 しかし、現行区では土壌水分不足によって大豆の子実収量が低下した試験結果も認められ、 排水性が過剰であったと考えられた。 したがって、現行暗渠は過剰設計の場合があると考えられた。
(5)本研究のフィールド調査を通じて、新しい暗渠排水システムの地下排水促進機能を検証する場合、 作土のサクションの観測と地下水位の観測を同時に行うことが有効な方法であることがわかった。

3.今後の課題
 本システムが土地改良事業に採用され、広く普及するためには以下の課題が残されている。
(1)低密度暗渠排水システムの特徴と営農排水の効果をより明確にする
 低密度暗渠排水システムを土地改良事業に導入するためは、検証例が少なく、営農補助暗渠の効果の特定も まだ不十分であると考えられる。 したがって、土壌型や立地条件の異なる水田において検証例を増やし、本システムが現行暗渠と比べ 劣っている点などを水田の性質ごとに明確にしていくことが必要である。 また、営農補助暗渠についても、水田の性質ごとに適切な施工間隔を明らかにしていくことが必要である。
(2)稲作時における排水性の検討
 本研究では水田の畑地利用と排水改良問題を中心に検討を行ったため、稲作時における排水問題については触れなかった。 しかし、稲作時においても、代かきや落水など適切な排水性が必要となる場合は少なくない。 したがって、今後は低密度暗渠排水システムによる稲作時の中干し、落水の応答性を検討する必要があると考えられる。