氏 名 たきざわ ただし
滝澤  匡
本籍(国籍) 新潟県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第350号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 捕食性テントウムシの個体数決定に及ぼす種間相互作用の影響
( Effects of interspecific interactions on abundance of predatory ladybirds )
論文の内容の要旨

 本研究では、捕食性テントウムシの個体数に及ぼす種間相互作用の実態と その機構を明らかにすることを目的とし、(1)アブラムシ随伴アリがテントウムシの個体数に及ぼす影響と、 (2)アブラムシ・小型テントウムシ・大型テントウムシ・アリの4者系で、2種小型テントウムシ幼虫の 生存に及ぼすアブラムシ随伴アリとナナホシテントウ幼虫の影響を調査した。

(1)アブラムシ随伴アリがテントウムシの個体数に及ぼす影響

 アブラムシに随伴するアリがテントウムシ個体数に及ぼす影響を調査するため、野外実験を実施した。 そこでは、アリがアブラムシに随伴するアリ随伴株とアリを除去したアリ除去株の2つの株で、 2種テントウムシ、ナナホシテントウ(以下、ナナ)とヒメカメノコテントウ(以下、ヒメ)の成虫と幼虫 及び卵の個体数調査を行った。 その結果、ナナとヒメの成虫ではアリの影響による個体数変化は見られなかった。 ナナの卵でも同様にアリによる卵数への影響はなかったが、ヒメの卵はアリによって減少し、全く観察されなかった。 ナナ幼虫数はアリの随伴する株で増加したが、ヒメ幼虫は卵と同様にアリ随伴株では観察されなかった。 これより、アブラムシ随伴アリがテントウムシの個体数に及ぼす影響は、テントウムシの種や 発育段階により変化することが明らかとなった。

 このようなアリがテントウムシの個体数に及ぼす影響が異なる機構を明らかにするため、 アリの攻撃行動とその後のテントウムシの反応に注目した行動観察実験を行った。 その結果、アリによるテントウムシの攻撃やその攻撃に対するテントウムシの反応には、 種間や発育段階間で違いが見られていた。 また、テントウムシの株移動に関係する採餌行動にも違いが見られ、これらの種間差が アリが2種テントウムシの個体数に異なる影響を与えていた原因として考えられた。

(2)2種小型テントウムシ幼虫の生存に及ぼすナナ幼虫とアブラムシ随伴アリの影響

 小型テントウムシであるクロヘリヒメテントウ(以下、クロヘリ)とコクロヒメテントウ(以下、コクロ)の 幼虫の生存に及ぼすナナ幼虫とアブラムシ随伴アリの影響を調査するため、野外及び室内実験を行った。 まず、ナナ幼虫とアリが2種小型テントウムシ幼虫の個体数に及ぼす影響を明らかにする野外実験を行った。 その結果、クロヘリ幼虫の個体数はアリによって減少している可能性が考えられた。 コクロ幼虫の個体数はナナ幼虫によって減少し、アリによって増加した可能性が示唆された。

 このような2種小型テントウムシ幼虫の生存に及ぼすナナ幼虫とアリの影響を個体群レベルで 明らかにするために、ポット実験を行った。 そこでは、ナナ幼虫とアリが単独で作用する3者系と両者が同時に作用するアブラムシ・小型テントウムシ・ ナナホシテントウ・アリの4者系で調査し、ナナ幼虫とアリの間に見られる相互作用も明らかにした。 その結果、ナナ幼虫により2種の小型テントウムシ幼虫の生存率は低下していたが、アリによる生存率の 低下はクロヘリ幼虫でのみ見られ、コクロ幼虫では生存率への影響は見られなかった。 2種が同時に作用する4者系では、クロヘリ幼虫の生存率は減少していたが、 コクロ幼虫の生存率はナナ単独区の生存率に比べて増加していた。 さらに、ナナ幼虫とアリの関係では、アリの存在によってナナ幼虫の個体数が減少した。

 このようなナナ幼虫やアリによる2種小型テントウムシ幼虫の生存率の低下がナナ幼虫による 捕食やアリによる捕獲であるか検証するため、個体レベルの種間相互作用を明らかにするシャーレ実験を行った。 その結果、2種小型テントウムシ幼虫ともナナ幼虫の捕食により生存率が低下し、 ナナ幼虫による生存率の低下がギルド内捕食に起因することが明らかになった。 クロヘリ幼虫ではポット実験と同様にアリによって生存率が減少しており、アリによる捕獲が 個体数減少の原因であった。 また、コクロ幼虫ではナナ幼虫との3者系よりもナナ幼虫とアリがいる4者系で生存率が増加していたことから、 アリがギルド内捕食者であるナナ幼虫を排除することで、コクロ幼虫の生存に間接的に正の影響を もたらしていることが明らかになった。

 これらより、野外における2種小型テントウムシの個体数決定には、クロヘリ幼虫ではアリによる 直接的な負の影響が重要であり、コクロ幼虫ではナナ幼虫による直接的な負の影響と、 アリによるギルド内捕食者のナナ幼虫の除去に起因する間接的な正の影響が重要であったと考えられた。