氏 名 なかむら たかし
中村 宣司
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第349号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 有機ゲルマニウム化合物Ge-132の生理作用に関する研究
( Physiological Function of Ge-132, an Organic Germanium Compound )
論文の内容の要旨

 Ge-132は生理活性を有する安全性の確認された有機ゲルマニウム化合物で、 過去30年におよぶ研究において免疫賦活作用が明らかにされ、また医薬品開発を行う過程で様々な疾病に 対する有効性が確認されてきた。 この化合物は現在、健康食品や化粧品の材料として流通されている。 食品素材として経口で摂取したときに生体に現れる顕著な作用として糞便の変化があり、 軟便化や色の変化(黄色化)が認められる。 本研究では、Ge-132の投与時に与えられる生理活性について、特に排泄物中の色素を中心に検討を行った。

 1.Ge-132は糖と相互作用することで糖の異性化反応を促進することが明らかにされている。 一方、難消化性のオリゴ糖は摂取したときに糞便の性状が変化するが、Ge-132と同様に軟便化や色変化が生じる。 Ge-132によって消化管内でビフィズス因子となりうる難消化性オリゴ糖が(異性化によって)生成し、 その物質によって腸内細菌叢が変化を受けることによって糞便の変化が起こるのではないかという仮説の基で、 Ge-132の腸内細菌叢に与える影響と糞便の色変化を与える成分について著名なビフィズス因子である ラフィノースと比較検討した。
Ge-132の0.05%含有精製飼料の投与により、ラットの腸内細菌叢にはラフィノース投与で認められるような 顕著な変化が認められなかった。 一方で、糞便の色変化は明らかで、盲腸内容物中に胆汁色素代謝物である糞便色素ステルコビリンが 顕著に増加することが明らかになった。 また、併せて総胆汁酸量も著増しており、胆汁の消化管への排泄が促進されていることが示唆された。 盲腸内のβ−グルクロニダーゼ活性を測定した結果、Ge-132投与群では顕著な増加が認められ、 胆汁酸や胆汁色素がグルクロン酸抱合体として盲腸内に流入増加した結果として、 基質であるグルクロン酸抱合物質に応じて酵素誘導されたのだと考えられた。 このように、Ge-132の経口摂取によって胆汁成分の分泌量が増加することが明らかになった。 この分泌促進によって生じる変化としてステルコビリンが血色素ヘムの分解代謝産物であることから ヘモグロビンの崩壊が考えられた。 一方、赤血球量や血中不飽和鉄量には変化が認められなかったことから、ヘモグロビン崩壊(赤血球排除)の 反対にヘモグロビン合成(赤血球新生)も亢進されて赤血球の代謝回転が促進している可能性が示唆された。

 2.Ge-132経口投与でラット盲腸内に増加する色素ステルコビリンは、胆汁色素ビリルビンの代謝産物で、 ビリルビンが還元されたウロビリノーゲンの酸化物である。 ビリルビンは既知の抗酸化物質として知られているが、その還元された物質であるウロビリノーゲンも抗酸化性を 有するのではないかと予測し、胆汁色素代謝物ウロビリノーゲンの抗酸化性を検討した。 糞便色素ウロビリノーゲンを合成し、安定ラジカル試薬DPPHに対するラジカル補足能およびリノール酸の 自動酸化に対する抑制効果について抗酸化活性を検討した結果、ウロビリノーゲンは高い抗酸化性を 有することが明らかになった。 また、その性質はウロビリノーゲンのC10位の活性メチレンのプロトンにより与えられると考えられる。 Ge-132の経口投与によって消化管内に誘導される胆汁色素は、ウロビリノーゲンへと還元され、 抗酸化作用を持つことが推測される。

 3.Ge-132の投与によってラットの糞便中に増加する色素を検討した。 ケイ酸TLCによりプロトポルフィリンと思われる赤色色素の増加を確認した。 糞便中に増加する赤色色素をシリカゲルカラムクロマトグラフィーやケイ酸TLCによって精製して各種機器分析を行った。 UV可視および蛍光スペクトル分析によって得られた結果はプロトポルフィリンの性質と一致し、 さらにはTOF/MSおよびNMRのいずれも、プロトポルフィリンの構造を支持するものであった。 また、プロトポルフィリンの糞便含量をHPLC分析によって定量した結果、顕著な増加が認められた。 Ge-132の経口摂取によって、ヘムの分解代謝産物ビリルビンやステルコビリンが分泌増加していることが 明らかにされる一方、ヘムの前駆体であるプロトポルフィリンが排泄促進されていることが明らかになった。 このことは、前述した赤血球の代謝回転促進が生じ、ヘム合成系も促進された結果であると考えられる。 プロトポルフィリンは肝炎などの治療薬として認可されていることを考え合わせると、 Ge-132によって改善される数々の疾病の一部は、このGe-132によって誘導されるプロトポルフィリンの 作用による可能性が示唆される。

 4.Ge-132によって糞便に色素を誘導させる要素を検討するために、 Ge-132の類縁化合物数種による糞便色素への影響を検討した。 また、その化合物の糖との相互作用をGe-132と比較検討した。 ゲルマニウム化合物の構造の違いによって、糞便の色変化には違いが見られ、 ゲルマニウム化合物中のゲルマニウムと結合する水酸基の数が糞便色素誘導にとって 重要な因子であることが示された。 また、ゲルマニウム化合物のAHETとの錯体形成についてのNMRを用いた検討によって、 この糖と類似の構造を持つ生体内の糖質との相互作用が色素変化に関わっている可能性が見出された。