氏 名 つかもと たかゆき
塚本 隆行
本籍(国籍) 長崎県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第347号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 マイクロ波減衰量計測による牧草水分の測定
( Determination of the Moisture content of Forage by Microwave Attenuation )
論文の内容の要旨

 わが国の粗飼料生産においては、収穫適期の不安定な気象条件に起因する品種の 不均一性が国内農家の生産意欲を妨げ、自給率低迷の要因となっている。 特に、品種を左右する収穫期の牧草水分を迅速且つ正確に測定する技術がないことが品質不安定の要因となっている。

 本研究は、収穫作業機械に水分計測装置を搭載することで、調製作業の各段階における 「リアルタイムの水分計測」を目的とした。

 牧草のリアルタイム水分計測については、既存の研究例が国内外になく、各種水分計測手法を検討した結果、 牧草の内部水分を計測可能なマイクロ波透過方式を採用した。

 はじめに、計測素材としての牧草の特性とマイクロ波減衰量の関係を明らかにし、 マイクロ波透過方式による牧草の含水率測定の可能性を検討した。

 マイクロ波を透過する厚紙製の計測容器に、繊維方向を揃えて100mmに細断した牧草を充填した。 試験の結果、減衰量は含水率と高い相関を示したが、減衰量は繊維方向が異なると異なる値を示したことから、 減衰量は牧草の繊維方向の影響を受けることが明らかになった。

 繊維方向の影響を除去する手法を検討した結果、牧草を細断し、繊維方向がランダムになるように 計測容器に充填する方法で試験を行った。

 牧草の細断長さ20,40,60mmの3段階の減衰量測定を行った結果、3段階のいずれにおいても、 相関関係が向上し、誤差も2%程度であった。 また、減衰量は繊維方向が異なるときも同じ値を示し、繊維方向の影響を取り除くことに成功した。

 この手法による牧草のリアルタイム水分計測装置の実用化に向けて、試作計測装置を作成し、 減衰量の計測試験を行った。 マイクロ波の減衰量は牧草の含水率の他に、密度と伝播距離(測定物中をマイクロ波が透過する距離)の影響を受ける。 したがって、含水率を高い精度で測定するためには、牧草の密度と伝播距離を一定にする必要がある。 そこで、計測容器に牧草を充填することで伝播距離を固定し、計測容器の容積を変化させることで内部の 牧草の密度を調整する手法を試験した。

 ピストン型の計測容器を作成し、容器に牧草を充填することで伝播距離を固定し、 ピストン型の蓋で計測容器の容積を変化させることで充填した牧草の体積を任意に調整する手法を試みた。

 試験の結果、伝播距離は固定できることを確認した。 しかし減衰量の変化は、計測容器の容積の変化に比例しなかった。 すなわち、試作した計測容器で牧草の体積を変化させることで密度を任意に調整することができないことが明らかになった。 ピストン型の蓋で牧草を圧縮することで、計測容器内部の牧草の密度に偏りが生じていることが、 減衰量と密度の相関が低い原因であることを確認した。

 減衰量が牧草の体積の変化に比例しないのは、体積を変化させることで密度に偏りが生じるためである。 センサの測定範囲が、計測容器の一部分であるため、測定範囲の密度に比例して減衰量は増減する。

 そこで、マイクロ波放射アンテナを変更することで、計測容器の全範囲で減衰量を測定し、 計測容器内部の密度の偏りの影響を除去する手法を試みた。

 ピストン型の計測容器を作成し、牧草の体積を任意に変化させ、減衰量を測定した。

 試験の結果、牧草の体積の変化と減衰量は高い相関を示した。 アンテナのタイプを換えることで、計測容器内全域を測定し、密度の偏りによる減衰量への影響を 除去することができた。 この手法によって、含水率は誤差1%で計測できることを確認した。

 マイクロ波透過方式による牧草のリアルタイム水分計測について検討した結果、収穫作業時に 減衰量を計測し含水率を測定するためには、牧草の繊維方向、伝播距離、密度について調整する必要がある。

 試験を行った結果、減衰量から牧草の含水率を誤差1%で計測できる見通しを得られた。 減衰量に影響する各種要素については以下の方法で解決した。
1.繊維方向の影響は牧草を細断することで影響を取り除いた。 細断長は20,40,60mmとして試験したが、計測の精度に違いはなかった。
2.伝播距離については、計測容器に牧草を充填することで固定することができた。
3.密度については、牧草の体積を調整することで密度を任意に調整することができなかったが、 センサのアンテナを変えることで減衰量計測範囲を拡大し、密度の偏りによる減衰量への影響を除去することができた。

 今後、この手法による水分測定については、ネットワークアナライザによって周波数と波長を変更することで さらに計測の精度を向上できる可能性がある。 また、電界強度を上げることで、測定可能な牧草の質量を増加できる。