アズキは歴史の古い作物であるが、その生産と利用は東アジアに限られており、
なかでも日本が主な消費国である。
日本における生産は北海道が8割以上を占め、道東の十勝地方が主産地である。
北海道で栽培されているマメ類のなかでアズキは最も冷害に弱く、このため生産が不安定である。
また、アズキは日本における消費量が10万トン前後と少なく、いわゆるマイナークロップであるために
作物学的知見が少ない。
本研究は寒冷地におけるアズキの安定生産の見地から、種子および幼植物の特性を、同じ寒冷地で栽培されている
ダイズおよびインゲンマメと比較することにより明らかにした。
2001年から2005年まで十勝地方に位置する帯広畜産大学で4つの実験を行い、次の結果を得た。
1.粒重と種子の形および構成部位との関係.
アズキの種子の形は俵型、ダイズは球型、インゲンマメは腎臓型であるが、いずれの種子も
その粒重が増減しても形は種固有の形を示した。
粒重が増加すると各マメ類とも粒長、粒幅および粒厚が増加するが、その程度は種によって異なった。
ダイズでは3形質が揃って大きくなるのに対し、アズキとインゲンマメは粒幅と粒厚の増加程度が
粒長・粒幅や粒長・粒厚よりも大きかった。
アズキ種子の粒重に占める割合は子葉が90.9%、種皮が7.9%、胚芽が1.2%であった。
ダイズとインゲンマメの子葉割合は90%前後で、3種類のマメ類に大きな違いはなく粒重が増減しても変わらなかった。
しかし、残り10%を占める種皮と胚芽の割合はマメの種類と粒重で異なった。
アズキは種皮割合が3つのマメ類のなかで最も高く、各マメ類とも粒重が小さくなるほど
種皮の割合は高くなり、胚芽の割合が低くなった。
2.種子の大きさと出芽および初期生育との関係.
アズキは同じ日に播種したダイズ、インゲンマメに比べて出芽が3~5日遅かった。
これはアズキ種子の難吸水性と地下子葉性が関係していると考えられた。
ダイズとインゲンマメでは粒重と出と出芽日および出芽までの積算温度とに高い正の相関があったが、
アズキでは有意な相関はなかった。
ダイズとインゲンマメでは粒重と初生葉、第1および第2葉面積とは高い正の相関があったが、
アズキの第1葉には有意な相関が認められなかった。
アズキでは粒重と3葉期の葉面積および個体重に高い正の相関があったが、3葉前後の10日間の
増加速度とは有意な相関はなかった。
3.年次と播種時期による初期葉面成長の変動.
供試したアズキ2品種の葉面積は初生葉が最も小さく、葉位が上になるほど増加した。
この傾向は一部を除き播種日を変えても、低温年および高温年でも変わらなかった。
高温年の葉面積は低温年より3.0倍以上大きくなった。
葉の表皮細胞はダイズおよびインゲンマメと同じ凹凸のある多角形で、アズキの表皮細胞面積には
191~6088μ㎡の変異があった。
初生葉の細胞面積は第1~3葉の面積より大きかった。
播種日が遅くなるにつれて、初生葉の細胞面積は増加したが第1~3葉にはこの傾向はみられなかった。
細胞面積も高温年が低温年より大きかった。
葉面積に対して葉長と葉幅は高い正の相関を示したが、葉面積と細胞面積の相関では
初生葉でのみ正の相関が認められた。
葉面積に対する葉長と葉幅の効果は後者の方が相対的に大きかった。
4.低温による幼植物の生育障害についての生化学的解析.
低温遮光処理後、自然光下で緑化処理したアズキ品種アカネダイナゴンは緑色を回復したが、
斑小粒系-1は葉が退色し枯死する個体が増加した。
斑小粒系-1は低温によりH2O2が増加し、抗酸化酵素
Ascorbate peroxidase(ATP)と Catalase(CAT)の活性が抑制されてクロロフィルが分解し、葉が退色した。
供試した両品種には低温によるH2O2の増加、ATP、CAT活性およびクロロフィルの
分解に顕著な差がみられた。
アズキ、ダイズおよびインゲンマメの各3品種を低温、緑化処理するとH2O2含量と
Superoxide dismutase(SOD)、ATPおよびCAT活性に差がみられた。
3つのマメ類の低温に対する幼植物の反応は種の違いよりも品種間の差が顕著であった。
寒冷地で生産されるアズキは、冷涼なため病害虫が少なく、登熟期の日温度較差が大きいため品種が優れている。
しかし、このような環境条件は一方で冷害および霜害に遭遇する危険が高く、生産が安定しない要因となっている。
アズキはダイズやインゲンマメに比べて初期生育が緩慢で、低温年には生育が著しく劣る特徴がある。
これらの欠点を遺伝的に改良することが寒冷地で安定して良質のアズキを生産するために重要と考えられた。
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