氏 名 | パク ジョンイン 朴 鐘? |
本籍(国籍) | 韓国 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第344号 |
学位授与年月日 | 平成18年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物資源科学専攻 | ||
学位論文題目 | 高等植物における生殖器官特異的遺伝子の分子生物学的解析 ( Molecular analysis of reproductive-organ specific genes in higher plants ) |
||
論文の内容の要旨 | |||
本研究では、高等植物の生殖器官で特異的に発現している遺伝子を用いて解析を行った。 第一章では、以前SLGやSRKを分子マーカーとして、PCR-RFLP法により、S遺伝子型を 同定する方法が報告されたが(Brace et al. 1993: Nishio et al. 1994,1996,1997)、花粉で劣性を示す クラスⅡ系統を分類できないなど、多くの問題点があり、実際の育種の現場で利用するには困難であった。 しかし、本研究で行ったSRKの2種類のプライマーはBrassica oleraceaのほとんどすべての場合を カバーできるユニバーサルなプライマーであり、正確にクラスⅠとクラスⅡ系統の分類が出来た。 また、このプライマーを用いたPCR-CAPSの結果は二面交配の結果と正確に一致することから、 育種の現場で効率的にS対立遺伝子の分類が可能であることが期待される。 第二章では、B. oleraceaの自家不和合性S15ハプロタイプにおける遺伝子座の ゲノム構造解析により、SP11遺伝子が3回重複して存在することを明らかにした。 さらに、S15の塩基配列分析や発現分析からS15-SP11aと S15-SP11bの間のintergenic領域及び、S15-SP11bと S15-SP11b-1の間のintergenic領域では、それぞれの遺伝子の転写に必要な cis-elementが欠失し、また、S15-SP11bはS15-SP11aと 共転写によって1.4kb mRNAとして異常な発現をすることから、S15-SP11b遺伝子そのものは、 偽遺伝子だと考えられた。 このことから、S15ハプロタイプの自家不和合性の認識はSRK15と S15-SP11aの相互作用によって制御されているものと考えられる。 第三章では、植物の生殖過程に関わるcysteine-rich proteinはリガンドとしてreceptor kinase遺伝子と 相互作用し、花粉の発達、自他認識、花粉管の発芽に重要な役割を果たす事が知られている(Takayama et al. 2000)。 本研究で同定された新しいタイプのcysteine-rich motifを持つOsSCP1,2,3遺伝子のうち2つの遺伝子が 重複していたことが分かった。 さらに、発現解析から成熟した花粉と花粉管で特異的に発現することを明らかにした。 このことから、OsSCP1,2,3遺伝子は成熟花粉発達と花粉管伸張に重要な役割を持っていると考えられる。 さらに、この遺伝子が花粉特異的リガンドとしての機能を持つなら、このリガンドと相互作用するreceptorの 同定は受粉と受精に関する遺伝的な知見を得るために重要であると考えられる。 第四章では、LIMタンパク質は動物の細胞の発達過程において、遺伝子の転写、細胞骨格の組織化、 シグナル伝達などの発育過程に多彩な関与することが知られているが(Dawid et al. 1995)、 植物においてLIMタンパク質の機能は知られていない。 本研究では新規に5個のLIMタンパク質をコードする遺伝子を同定した。 そのうち2つのタンパク質はこれまで植物で同定されていないLIMタンパク質を示す1個のみの LIM domainを持っており、根で特異的に発現した。 また、葉器官で特異的な発現を示したAtPLIM2aのより詳細な発現解析から、 この遺伝子は蕾ではタペート組織、小胞子で、成熟花では花粉のみ特異的にシグナルが検出され、 報告されたHaPLIM1と発現パターンが非常に類似していた。 このことから、AtPLIM2aはHaPLIM1と同様に、成熟花粉でアクチンに関連する機能を行う、 あるいは花粉管発芽に重要な機能を行うことが推察された。 以上の4章からなる実験を通して、花粉特異的遺伝子として、花粉発芽、花粉管伸張を制御することが 推測される2つの遺伝子SCPs、LIMタンパク質遺伝子を単離・解析した(第3,4章)。 さらに、この遺伝子が相互にどのように機能しているかは、明らかにできなかったが、 従前までの研究を併せて考察すると、花粉発芽、花粉管伸張には、アクチンの再構築、 未知のシグナル分子が機能していることを新規に明らかにできた。 また、受粉における自他識別のモデルである自家不和合性に関しては、Sホモ系統を簡易的に 同定することが実験的にも、育種的にも重要である。 ここで、提案したプライマーを組み合わせることで、どのようなSホモ系統も同定できる可能性を示した(第1章)。 さらに、花粉側因子のSP11は、これまでの研究ではsingle copyで存在しているものが通例であったが、 重複していることを初めて解明し、S遺伝子の機能、進化を考える上で重要なデータを提供した(第2章)。 これらのことを基盤として、受粉、花粉発芽、花粉管伸張の分子機構が明らかになることが期待される。 |