氏 名 しもたい よしたか
下平 義隆
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第343号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 哺乳類のDNA複製開始に関与するDNAエレメントとその結合因子及びそれらの機能
( Functional analyses of a DNA element and the cognate binding protein that are involved in initiation of DNA replication in mammals )
論文の内容の要旨

 本研究は哺乳類細胞における複製開始機構、特に複製開始点の認識・決定の 解明を目指したものである。 この研究領域は、酵母で詳細な解析が行われているが、哺乳類に関しては不明な点が多い。 そのため、哺乳類の複製開始領域(オリジン)には酵母の様な共通配列が存在しない。 生物種を超えて保存されている複製開始因子の作用機構が酵母のアナロジーでは説明できない。

 これまでに当研究室では、ラット未分化型肝癌細胞を用いてアルドラーゼB遺伝子プロモーター領域 近傍のin vivo における複製開始領域(oriA1)を同定している。 また、このDNA領域をプラスミドに連結してCos-1細胞に導入すると自律複製活性を示すこと、 この活性にはサイトCとサイトPPu及びサイトATと名付けたDNAエレメントが必須であることなどを明らかにしている。 これらのうち、サイトPPu(GGXが5回繰り返した配列をもつ)については詳細な解析が行われていなかった。 本研究ではサイトPPuの複製開始における機能を明らかにすることを目的として、 これに結合するタンパク質の機能及び構造を解析し、以下の結果を得た。

(1)サイトPPu結合因子
 in vivoでoriA1が機能しているdRLh84細胞の核タンパク質中に存在するサイトPPu結合因子の Gに富む一本鎖DNA結合因子を精製し、この精製画分をSDS-PAGEで分離したところ、 2種類のタンパク質が存在した。 これらのタンパク質の部分アミノ酸配列を決定したところ、Purα 及び Purβ であることがわかった。 また、これらのタンパク質の発現解析を行ったところ、クロマチンへの結合量はG1期に最も増加することが分かった。

(2)サイトPPu DNAの構造特性
 サイトPPu DNAは一本鎖に解離しやすい構造特性を持つことが分かった。 また、サイトPPuのGに富む一本鎖DNAはサイトPPuを含むDNAと三本鎖構造を形成することがわかった。

(3)サイトPPuのin vivoにおける複製開始反応への関与
 野生型oriA1及びサイトPPu欠失させたoriA1 DNAをマウス染色体に導入し、導入部位近傍の 複製新生鎖量を解析したところ、サイトPPuを欠失させるとオリジン挿入部位からの複製活性が低下したことから、 サイトPPuは複製開始に必須であることがわかった。 また、サイトPPuを欠失させるとpurα/βが結合できないことから、これらのタンパク質のoriA1への結合が 複製開始に関わっていることが考えられた。

以上の結果から、oriA1のサイトPPuは構造的に解離しやすい性質を持つが、PurαとPurβは このDNA領域の安定化に関わり、このことがoriA1の複製開始反応に必要であると考えられた。 また、これらのことから、哺乳類のオリジンには複数の機能的DNAエレメントが存在し、さらに、 そこに作用するタンパク質がオリジン決定機構に重要であることが考えられた。 このモデルが哺乳類細胞で普遍的なものであるか否かは不明な点もあるが、サイトPPuと同様の配列は 他のオリジンにも存在する。 従って、PurαとPurβは複数のオリジンで機能する複製開始因子である可能性が考えられる。