氏 名 なりた たくみ
成田 拓未
本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第338号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 果実農協共販の物流過程に関する研究
( A Study of the Distribution Facilities of Fresh Fruit through Agricultural Cooperatives. )
論文の内容の要旨

 日本資本主義の中での農民の市場対応は、農協による共同販売(以下共販)を軸に 展開してきた。 まずは商人資本による譲渡利潤、投機利潤を排除すべく共販が組織された。 戦後、高度経済成長期の中では、特に選択的拡大品目(青果・畜産物)において農協共販の伸張が見られた。 しかし、それは「資本のリード」による農産物市場の再編成の一部であり、よって農協共販の性格は 「単なる集出荷を担うだけ」であった。 高度経済成長破綻の後、低経済成長下で需要の伸びは次第に鈍化し、農産物輸入自由化の進展もあって、 農産物市場は「過剰」基調に直面した。 その中で、農産物市場での競争は激化し、農協共販は新たな市場対応を迫られた。 その市場対応の実態は、今日ますますマーケティング的色彩を強く帯びてきている。 わが国のように、小商品生産が大多数を占める農産物に対して、マーケティングが適用できるかどうかについては 議論のあるところである。 しかし、実態として農協共販にマーケティングにおける技法が広範にみとめられるようになった中で、 農協共販をマーケティング的な分析視角をもって考察することは避けられない。 そこで、農協共販におけるマーケティングに関する研究が数多く取り組まれてきた。

 一方、農産物物流の機械化は、質的にも量的にも大きく前進している。 もちろんこうした物流機器の多くは、農協が所有し、農協共販を展開する上での重要な生産力的基礎をなしている。 一方で、日本農業の現状は、農業労働力の弱体化=農業生産力の低下と価格低迷による再生産の危機に直面している。 価格低迷への対応としては広くマーケティングが展開されているが、それは農業労働力弱体化という条件を 無視しては展開しえない。 そこで、生産力の一方での上昇(農協の物流過程)と他方での低下(生産者の生産過程)という視点で見るならば、 農業労働力弱体化に対して、農協が物流の側面からいかに対応していくかということが課題となる。 こうしたことから、今日の農業の危機への対応方向として、農協共販におけるマーケティングに関する研究が 多数なされているものの、その基礎としての物流過程に関する研究はほとんどみられない。 そこで本稿では、農協共販の物流過程について、果実(りんご)を事例に考察を試みた。

 第1章では、農産物物流及び果実マーケティングに関する研究整理によって、その到達点と課題を明示した上で、 農協共販におけるマーケティングの基礎としての物流過程を対象とした研究が求められていることを明らかにした。

 第2章では、統計分析を中心に、戦後農産物市場と農協共販の市場対応の展開過程と同時に、 農協共販における物流施設整備の動向を明らかにした。 その上で、農業労働力弱体化に対応したマーケティングのあり方、その条件としての物流過程のあり方を 問うことが農協共販の今日的課題であることを明らかにした。

 第3章では、農協共販における物流対応の課題を明らかにした。 その際、課題を具体的に明らかにするために、物流過程の機械化が著しく進んでいる青森りんごに絞って検討した。 戦後のりんご市場は、果実における需給の多様化や輸入の自由化によって、価格低迷の危機や激しい産地間競争に直面してきた。 その中で青森りんごは、品種更新や貯蔵による販売期間の延長という対応をとってきた。 しかし、今日、こうした対応は限界に近づきつつある。 また、農業労働力の弱体化の中で、農業における生産力が低下し、これまで青森りんごの販売戦略の 基礎となっていた貯蔵性に問題が出てきている。 こうした現状に対応して、マーケティング戦略の構築と、その基礎としての物流過程の構築が求められるのである。

 第4章以降では、津軽平賀農協のりんご共販を事例に、マーケティングとその基礎としての物流過程の実態を検討した。 まず第4章では、津軽平賀農協の独自性の強い物流過程について検討し、それが、 ①農業労働力弱体化に対応して生産者の省力化に貢献していること、 ②量販店主導で再編が進む卸売市場流通によく適応していること、 ③それが産地側にとって経費面でもメリットがあること、 ④こうした物流過程が、産地の主体性に基づいて構築されてきたこと、などを明らかにした。

 第5章では、前章で検討した物流過程を基礎に展開されるマーケティングの実態を明らかにした。 津軽平賀農協では、多様な販売チャネルを確保し、幅広い品質の果実を有利に商品化している。 その基礎として、独自の物流過程が大きな役割を果たしている。

 第6章では、農業労働力の弱体化の中で発生した物流危機に対して、農協間協同や 移出業者との協同によってその危機を克服していく過程を取り上げた。

 このように見てくると、農協共販の課題として指摘されているマーケティングにとって、物流過程が極めて 大きな役割を果たしていることがわかる。 また、生産力の低下に対しても、農協の物流過程が果たす役割は大きい。 農協は、生産者の出資によって立つ以上、生産者の要求を実現しうる組織でなければならない。 そのためには、生産者の現状=生産力の低下と価格低迷による再生産の危機を踏まえた物流過程のあり方を 追求することが不可欠である。