氏 名 いけだ てつや
池田 哲也
本籍(国籍) 静岡県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第336号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 育成牛のためのチモシー草地における集約放牧技術の開発に関する研究
( Study on the development of intensive grazing system utilizing timothy pasture for raising cattle )
論文の内容の要旨

 本研究は、気象条件が厳しい北海道東部や本州中部以北の高冷地における、 育成牛のための安定した集約放牧技術を確立することを目的とした。 このため、耐寒性に優れるが季節生産性の変動が大きいチモシー主体の草地において、晩生品種の ホクシュウを用いて高栄養な短草型に保ち、同時に放牧牛への牧草供給量を一定に保つ方法として、 牧草の季節生産性に合わせて放牧地面積を調整する方法と放牧牛の頭数を調整する方法について、 それぞれの牧草生産性と家畜生産性を検討した。 また、実際の飼養体系への集約放牧の導入の可能性を明らかにするため、ホルスタイン種去勢牛の 肥育牛生産体系の育成期に集約放牧を組み込む生産方式の産肉性を検討した。 結果の概要は、以下の通りであった。

 1.放牧地面積を調整するため、牧草の生産速度が速い春季は、放牧地面積の約4割だけで 短期輪換放牧を行い、残りの約6割を兼用草地として6月上旬に収穫した後、 生育速度が低下する夏季以降に放牧地に加えて草地全体で短期輪換放牧を行った。 このような集約放牧により、チモシーの草丈を放牧期間中を通して短草型に維持でき、 放牧地面積の調整を行わない放牧方法に比べ、割当草量の平準化と乾物消化率の季節変動幅の抑制ができることが 明らかとなった。 また、この集約放牧による放牧草の生産量は、採草利用方式における年間乾物収量と同程度であったが、 これに兼用草地において春季に収穫した牧草を加えることによりさらに高い牧草生産量が得られ、 本集約放牧の牧草生産性の高さが明らかとなった。 さらに、このような放牧を4年間行っても、チモシーの乾物重量構成割合は採草利用した草地より高く維持でき、 集約放牧を行うことによって草地の植生が悪化することはないことを明らかとなった。
 放牧地面積を調整しながら短期輪換放牧を行う集約放牧は、補助飼料なしでも既往の報告よりも 家畜生産性が高いことが明らかとなったが、夏季間に放牧牛の増体速度が低下する傾向にあった。 これを改善するため、面積調整に用いた兼用草地において春季に刈取り調製したサイレージを 夏季以降に供給した結果、増体量改善効果が認められ、土地生産性も向上した。
 これらの結果、チモシーの放牧・採草兼用品種のホクシュウを用いた短期輪換放牧を主体とする 集約放牧方法が開発でき、採草利用よりも高い牧草生産性と従来の放牧方式より高い家畜生産性が 得られることが明らかとなった。 なお、本放牧方法は、兼用利用可能な草地が6割以上確保できるような平坦地での利用が適している。

 2.5月上旬から7月上旬まで、放牧牛全頭をチモシー草地で転換放牧し、7月上旬以降は、 このうちの一部を退牧させる頭数調整放牧は、短期輪換放牧を主体とした集約放牧と同程度の 高い家畜生産性が得られることが明らかとなった。 このため、退牧した牛を収容する調整草地を設け、春季に調整草地で収穫したロールベールサイレージを 供給しながら夏季以降連続放牧を行うことにより、両放牧草地とも高い増体量が得られた。 また、調整草地において、春季の刈取りにより乾物消化率が70%程度の牧草が500kg/10a以上の収量で得られれば、 調整草地に必要な面積割合は、約3割と考えられた。
 これらの結果、頭数調整放牧を主体とする集約放牧方法が開発できた。 本放牧方法は、頻繁な転牧を行う必要がなく、採草可能地面積比率が低くても利用できることから、 管理が難しい山地傾斜地に位置する公共牧場のようなより省力管理が必要とされる条件において、 育成牛の増体を高める技術として利用が期待できる。

 3.6ヶ月齢から6ヶ月間集約放牧により育成した後、約12ヶ月間肥育したホルスタイン去勢牛群の 飼養期間通算の平均日増体量は、現行の方式で6ヶ月齢から放牧は行わずに約18ヶ月間肥育した牛群と同程度で、 肉質等級3以上の割合に差はなかった。 この結果、集約放牧を行うことにより、現行の肥育体系と同様の期間で同程度の肉質の牛肉の出荷が 可能なことが明らかとなった。 また、屠場における内臓の一部廃棄牛の頭数は、放牧育成区が対照区より少なく、放牧育成の効果が窺えた。

 4.以上の結果から、これまで放牧に適さないとされてきたチモシーを用いて、 短期輪換放牧を主体とした集約放牧と頭数調整放牧を主体とした集約放牧の2つの集約放牧方法が提示できた。 また、これらの集約放牧を肥育牛生産体系の育成期に取り入れることにより、 現行の濃厚飼料多給型の肥育牛生産体系と同様の肉生産が可能であることが明らかとなり、 集約放牧の家畜生産性の高さが実証された。