氏 名 なかた あきふみ
中田 章史
本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第332号
学位授与年月日 平成17年3月31日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 高頻度反復配列及び染色体に基づくモグラ科ヒミズ亜科の系統解析
( Karyotypic evolution and organization of the highly repetitive DNA sequences in the Japanese shrew-moles(Talpidae, Scalopinae) )
論文の内容の要旨

 ヒミズ亜科のヒメヒミズとヒミズの種内分類群としての2染色体種族の核型を比較し、 ヒミズ亜科の核型進化やゲノム進化について系統進化学的観点より調査を行った。 ヒミズ類2種の染色体数はいずれも 2n=34 で、第13,14染色体の形態に差異が観察されたが、それ以外の 染色体はバンドパターンも類似していた。 東日本のヒミズ第14染色体は、メタセントリック染色体で、西日本ではサブテロセントリック染色体であった。 さらに、ヒメヒミズの第14染色体の形態は、西日本のものと酷似していた。 これらの結果は過去の知見と一致した。 第13染色体は種間で違いが確認され、ヒメヒミズではサブテロセントリック染色体であったが、 ヒミズではメタセントリック染色体であった。 CMA染色により、この形態の違いはヒミズの短腕基部のヘテロクロマチンの増幅に起因することが示された。

 ヒミズ亜科におけるゲノムの特徴を調べるために、制限酵素処理による反復配列の探索を行った。 ヒミズのゲノムDNAをPst Iで消化した際に、3種類のバンド(0.7, 0.9, 1.4kbのPst I断片)が検出された。 しかし、西日本のヒミズの0.9, 1.4kbのバンドは東日本のものに比べやや不明瞭であった。 これらの断片をプローブとして染色体上での分布を調査した結果、0.9, 1.4kbのPst I断片は主に第13染色体の 短腕基部の領域に、0.7kbの断片は動原体領域に分布していることが示された。 一方、ヒメヒミズでは0.9kbのバンドのみを有しており、動原体に分布している配列であった。 zoo-blot とFISHの結果から、動原体の反復配列(ヒメヒミズの0.9kbとヒミズの0.7kbの断片)と第13染色体の ヘテロクロマチンに分布する配列は構成や起源の異なる反復配列であることが示唆された。 ヒミズの0.9, 1.4kbのPst I断片は、ヒメヒミズの染色体でその存在は示されなかったが、zoo-blotの解析では その配列の起源と思われるシグナルが観察された。 また、ヒミズの0.9kbのPst I配列はメチル化して、東西集団間で塩基配列に違いが見られた。 また、ヒメヒミズにおいて、ヒミズの0.9kbのPst I配列の起源と思われる0.7kbのPst I配列が単離された。

 ヒミズから得られたSINE様配列はヒミズの第13染色体のヘテロクロマチン領域や動原体、 二次狭窄を除いて染色体全体に散在して分布していた。 SINE配列の分布をzoo-blotで調べたところ、シグナル強度に違いがあったが、ヒメヒミズとコウベモグラにおいても ヒミズのSINE様配列を有していることが判明した。 そのため、このSINE様配列はヒミズ亜科とモグラ亜科の共通祖先に挿入された起源の古い配列であることが想定される。 また、ヒミズのSINE様配列はヒメヒミズよりも量が多いうえに、ユークロマチン領域に分布している。 それにも関わらず、ヒメヒミズとヒミズのユークロマチン領域のサイズとバンドパターンは酷似しているため、 今回得られたヒミズのSINE様配列の増幅は染色体構造(ユークロマチン領域)に影響を与えないのかもしれない。

 以上より、ヒミズ亜科の染色体の構造変化と反復配列の変化をもとに系統的な観点から 以下のようなシナリオを描くことが可能になった。 ヒメヒミズとヒミズの祖先的な核型はサブテロセントリック型の第13染色体と第14染色体を有していたと推定される。 ヒメヒミズとヒミズの2種に種分化する過程で、動原体に存在する反復配列に変化が生じた。 ヒメヒミズでは0.9kb,ヒミズでは0.7kbの反復ユニットを有するようになった。 さらに、ヒミズの系統で第13染色体に存在する0.9kbと14kbのPstI断片が増幅し、その結果 ヘテロクロマチンが伸長しメタセントリックの形態に変化し、ヒミズタイプの第13染色体が形成された。 その後、ヒミズの東部集団では第14染色体の挟動原体逆位が固定されるに至った。 それに伴いヒミズの東西間のヘテロクロマチンを構成している反復配列に違いが生じた。 また、ヒメヒミズからヒミズへの分岐の後も、SINE様配列は増幅し続けていった。 以上のことから、ヒミズ類2種の核型進化には動原体配列の反復ユニットの長さの違い、 第13染色体のヘテロクロマチンに特異的な反復配列と散在性反復配列が影響しているのかもしれない。