氏 名 よしむら あや
吉村  文
本籍(国籍) 愛知県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第331号
学位授与年月日 平成17年3月31日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 イナゴ属4種の動原体C-ヘテロクロマチンにおける高頻度反復配列の特徴
( Characterization of highly repetitive DNA in centromeric C-heterochromatin of four species of Oxya )
論文の内容の要旨

 現在の染色体分析には、古典的な染色体分染法だけでなくDNAの解析や染色体マッピングといった 分子遺伝学的手法を用いている。 それにより、より正確な核型進化や染色体上での構造変化を追うことができる。

 バッタ・イナゴ科に属する種の核学的特徴として、染色体の数や形は種間や属間で非常に保存され、 その一方でC-ヘテロクロマチンの分布とサイズは種特異性を示すことが知られている。 そのため、このC-ヘテロクロマチンの分布を調査することはイナゴ、バッタにおける核型進化の重要な指標であり、 著者らの行ったこれまでの研究でもそのような見解を支持する結果が得られている。 このC-ヘテロクロマチンのおもな構成要素である高頻度反復配列は、変異性が高く、 近縁種の間でも塩基配列や反復ユニットの長さ、染色体上での分布様式に違いを示す。 そのため、多くの生物の系統解析にも利用されている。 しかし、この分類群では種内や個体群間での報告はいくつかあるが、属内やもっと広い範囲での 高頻度反復配列の動向についてはまとめられていない。

 日本に生息するイナゴ属 Oxya4種(コイナゴ O. hyla intricata、 ハネナガイナゴ O. japonica japonica、タイワンハネナガイナゴ O. chinensis formosana、 コバネイナゴ O. yezoensis ) の核型は非常に類似しており (2n=22+XX/XO)、 この核型は多くのイナゴ・バッタ科昆虫でみられる。 しかし、C-ヘテロクロマチンの分布はそれぞれ異なり、動原体付近を構成するC-ヘテロクロマチンの 大きさに種間で違いがみられることが著者らの研究でわかっている。 前の2種では、その領域は短腕を形成するまでに至っている。 そこで、4種のゲノムDNAからそれぞれ短腕から動原体にかけて分布するDNA配列を単離し、 その領域における種間での配列の保存性や変異性、染色体上での分布を調査した。 それにより、染色体と配列構造の両方からイナゴ属の染色体進化について考察することにした。

 本研究の4種から得られた7種類の高頻度反復配列のうち6種類 (OHIH169, OJJD169, OJJD173, OCFD171, OCF173, OYD173) には配列の相同性がみられたが、残りのひとつ(OHIH204)とは 塩基配列に類似性がみられなかった。 両者は染色体上での位置も違うことから配列の起源が異なることを示す。 前者の反復ユニットの長さはおよそ170bp前後(60~63% AT)であり、後者は204bpであった(約54% AT)。 相同性のみられた反復ファミリーのなかで、タイワンハネナガイナゴのOCFD173とコバネイナゴのOYD173の 相同性が最も高く、各反復配列をプローブとして4種のゲノムに行ったサザン・ブロット・ハイブリダイゼーションに おいても種間でハイブリダイズしたのはその2種だけであった。 さらに、クローンで比較すると、主要な塩基置換は互いに共通していた。 そのため、過去に行われた他分野での研究結果と同様に、2種の種間関係は分化してからそれぞれの種で 生じた変異が定着するほどの時間を経ていないことを示す。 しかし、OCFD171ではそのような高い相同性をもった配列はコバネイナゴで検出されず、 サブファミリー間の分岐のほうが同じサブファミリーの種間での変異よりも速いと思われる。

 染色体上での動原体C-ヘテロクロマチンの配列構成と配列の増幅程度には種内でも多様性がみられ、 染色体分染ではわからなかった複雑な配列構成を示す。 また、タイワンハネナガイナゴでは動原体C-ヘテロクロマチン領域内で逆位が起き、 反復配列ファミリーの順序が逆転していた。

 イナゴ属ではサブファミリーの分岐が著しく、塩基配列の解析だけでは系統関係の正確な 比較は難しいと思われる。今後は、増幅する配列の種類とその時期から検討していく必要がある。 また、サブファミリー間での配列の変異箇所には偏りがみられ、保存性の低い領域のAT含有量は 50%以下と非常に低くなる。 そのため、塩基配列については配列のもつ構造的役割を見いだしていかなければならない。