氏 名 山本 達也 本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第115号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 複数のカルコゲン元素を含む六員環ヘタアレン誘導体の創製と応用に関する研究
論文の内容の要旨

 近年の高度、かつ迅速に発展する情報化社会において、わが国の産業界のみならず 世界的視野からも既存の技術にとらわれない新規なデバイス材料開発の必要性は高まっている。 そのような背景の中、有機分子を半導体デバイス素子とした研究が盛んになっている。 しかしながらこれまでの研究では未だ既存の無機化合物を用いた半導体デバイスに匹敵するものは無い。 従って新たな発想に基づくブレイクスルーが待ち望まれている。 本論文ではヘタアレンの一つであるジカルコゲニン類の合成法の開発と特性の解明を行い、 その展開として、新規なπ電子系拡張型ヘタアレン類の創製とその特性解明を行っている。 さらに工学的応用の観点から、有機分子半導体デバイスの開発におけるシステムの、 一つの新規な素反応モデルの構築を行っている。 すなわち、良好な電子移動特性を有するジカルコゲニン骨格を有機電界効果トランジスタの半導体部分へ 適用することを提案している。 本論文中ではそれらについて以下のように構成し記載している。

"第一章 緒論"では近年の時代背景を基に、エレクトロデバイス分野の現状について述べ、 有機へテロ原子化学の観点から新規分子群の合成の意義について述べている。 そしてジカルコゲニン類の諸特性と、それら諸特性から誘導されるデバイスへの応用の可能性について概説し、 その最も興味深いデバイスへの応用例として、有機電界効果トランジスタについて言及している。

"第二章 ベンゼン縮合型ジカルコゲニン類"ではヘタアレンの基本骨格として選定したカルコゲナントレンの 合成法の開発とその基礎的特性、及び電気化学的特性の評価を行い、更にそれら諸特性の分子軌道論的な アプローチによる理解の体系化について述べている。 結果として、カルコゲン原子の隣接位に嵩高い置換基を導入した単一型カルコゲナントレン類の 合成経路の改良に成功し、また混合型のカルコゲナントレンの新規合成法を確立したことを述べている。 そして合成したカルコゲナントレン類の電子構造を理論計算により明らかにし、その酸化分子の不安定性、 反応性について系統的理解に関する知見を得たことを述べている。

"第三章ベンゾチオフェン縮合型ジカルコゲニン類"ではπ電子系を拡張した新規なジカルコゲニン類の 合成経路の確立及び構造の確定と、結晶中での単分子構造と充填構造の決定を行い、 電気化学特性を含む諸特性を解明している。 更に理論化学的な手法によって電子移動能の考察も行っている。 またジカルコゲニン類の拡張した共役系と導入するカルコゲン原子の軌道間相互作用によって 電子移動能が調整できることを明らかにしている。 結果として分子にセレン原子を組み込むことによって結晶中における分子間相互作用の 増大に成功したことを述べている。 そしてこれらの特性から有機半導体への応用について提案している。 この屈曲型非芳香族ジカルコゲニン類の有機半導体への応用という試みはこれまでのOFET開発において、 初めての例である。

以上のように、本論文に記載した内容によって新規なヘタアレン類の合成について重要な知見が得られ、 またその特性の詳細な評価により半導体分子として、芳香族縮合型ジカルコゲニン類が有用であることを 提案している。 そして本論文の成果によって今後のデバイス開発における分子設計の重要な指標の一つを確立できたと述べている。