氏 名 鈴木 剛 本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第114号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 球状黒鉛鋳鉄とステンレス鋼との接合に関する研究
論文の内容の要旨

 球状黒鉛鋳鉄(FCD)と異種金属材料との接合は自動車部品、一般機械部品等に 幅広い分野で要求され、特に耐食性に優れたステンレス鋼(SUS)との接合が望まれている。 しかし、FCD と SUS との接合に溶融溶接法や固相接合法を用いて接合を行った場合、 鋳鉄側での硬化層晶出や、SUS側での炭化物析出による耐食性の劣化といった問題がある。 従って、現在の接合法は機械的な締結が主流であり、機械部品の軽量化や生産の高効率化のために、 溶融溶接法や固相接合法を用いた接合が必要とされている。

 本研究ではFCDとSUSとの接合に溶融溶接法と固相接合法を用いて接合実験を行った。 それぞれの接合法における最適な接合方法と接合条件を検討し、溶融溶接法、固相接合法を用いた FCDとSUSとの接合の確立を目的とした。

 溶融溶接法からはMAG溶接法とアプセット溶接法を用いた。 MAG溶接法を用いた試験では、FCD母材にSi含有量の異なる材料を使用し、FCDのSi含有量と 溶接金属中のNi,Cr含有量が溶接部界面組織および溶接金属組織に与える影響を調査した。 その結果、すべての試験片でFCDと溶接金属の接合界面に、硬くて脆いレデブライト層が晶出した。 レデブライト層は、溶接ワイヤ中のNi含有量の増加により晶出量が少なくなることが明らかとなった。 これはNiが黒鉛化促進元素として作用するためと考えられる。 またFCD母材側の熱影響部は、母材中のSi含有量が増加することで幅が狭くなることが明らかとなった。 これはFCD中のSi含有量が増加することでFCDの共折変態温度が上昇するためと考えられる。 Cr含有の溶接ワイヤを用いると、溶接金属中の結晶粒界にCr炭化物が析出することが明らかとなった。

 MAG溶接を行った試験片に1073K 以上の温度で熱処理を行うと、接合界面に晶出していた レデブライトがフェライトと微小な黒鉛に分解することが分かった。 しかし、Crを含有した溶接ワイヤを用いた試験片では、熱処理によってFCD側から溶接金属にCが拡散し 結晶粒界でCr炭化物を析出することが分かった。 Cr炭化物の析出は、溶接金属中のNi含有量が多くなると抑制が可能であることが明らかになった。

 アプセット溶接法を用いてFCDとSUSとの溶接を行った結果、FCDとSUS鋼種の組合せに 最適な溶接条件を設定することで、機械的性質の良好な接合継手が得られることが分かった。 母材破断した試験片のFCD側界面はパーライト組織で、溶融した層は界面から外側にバリとして 押し出されていた。 押し出されたバリはレデブライト組織であった。 界面破断した試験片の界面にはレデブライトが押し出されずに残っていた。 このことから、良好な接合継手を得るためには、接合界面から溶融池をバリとして排出する必要があることが 明らかになった。

 固相接合法では拡散接合法を用いて接合実験を行った。 インサート材として純Ni箔とNi-Cu合金箔を用いて大気中での接合を行った。 その結果、Ni-Cu合金をインサート材とした接合は、直接接合及び純Niをインサート材に用いた接合と比較して、 機械的性質の良好な結果が得られた。 またCr炭化物の生成は著しく抑制された。 CuはCを全く固溶しないため、FCDからSUSへのCの拡散を完全に防ぎ、Cr炭化物の析出を抑制したと考えられる。 FCDとSUSとの大気拡散接合において、Ni-Cu合金がインサート材として優れていることが明らかとなった。

 本研究結果を基に、MAG溶接法を用いてFCDとSUSとの複合材料部品を作製し、 自動車部品として応用した例を示した。

 上述のように、球状黒鉛鋳鉄とステンレス鋼との接合において、接合界面の状況は 接合方法により大きく異なることが分かった。 母材が溶融する溶融溶接法を用いる方法では、FCD側溶融部に晶出するレデブライトと溶接金属中の Cr炭化物が問題となり、固相接合ではSUS母材側界面近傍でのCr炭化物析出が問題となることが分かった。 それぞれの接合方法において、レデブライト晶出の抑制方法やレデブライト分解のための熱処理の実施、 加えてCr炭化物の生成を抑制する最適な溶接材料やインサート材を選定することで、 機械的性質の優れた健全な継手を得ることが可能になると考えられる。